死ぬのなんてかんたん、と
言ってみるのはかんたんさ
痛みだけを沈殿させて
あまい紫煙( しえん )をふり撒きながら
天井をくるくるおよぐ願望が
一つ口に集いはじめる
自ずから至るように
落ちてゆくんだよ世界が傾いて渦巻いて
栓のない浴槽孔に旋毛( つむじ )からからめとられるように首が
ポン と嵌( はま )る
落っこちるイメージさ
薄い布団を握って踏ん張れ 剥がれりゃ終わりだ
蟻地獄が崖が迫る迫る迫ったのはこちらのほう
ヅ と退( の )く
揺れて たわむ穴は
まぁるく結んだ紐のふち
( 準備したっけ ) ( いや、してない )
視える視えるそこにないのに視えるのはなぜ
( 誰か とめて ) ( ああ……まずいな…… )
死 ぬ
――死にたいと思う?
彼は言う
眼鏡のむこうの瞳は今日も静か
私は黙る
ゆるゆる頭をふるので精一杯
それは死にたかったからじゃない
生きていいか わからない
とりあえず来週、また。
彼は続ける
「 ひとりで決めては絶対にだめ」だよ。
苦しいと思う
それでも
また来週、ここで会おう。 と
約束( それ )だけが繋ぎとめる 深い 深い 深い 暗い 夜があった
待って、待って
聞いて 誰も責めてないよ
何も話さなくてもいい
もちろん話してくれてもいい
電話が繋がらないから心配しちゃった
料金払ってない? なんだ、もう 笑わせないでよ
でもよかった 会いたかったし
お茶? いいよ 顔見にきただけだもん
気ぃつかわないでよ らしくもない
話? べつにないよ
なんとなく 顔がみたくて
あー、会えてよかった
うん 待ってるよ
でもゆっくりでいいんだよ
何年でも
だいすきだよ
だいじょうぶ
だいじょうぶだよ
ああ こごえてしまいそうな夜だ
こんな日には星に祈ろう
天上のパティシエが
するどくとんがった山々を
ふんわりまあるいケーキにするよ
お願い パウダースノウ
天使のあまさで頬を抉( えぐ )った痕を消してよ
やさしい白さで煙を濡らして
あの子の火傷を冷やしてよ
羽よりかるく世界を撫でて
わたしたちのかなしみを
みんな一緒につつんでよ
そして一緒にとかしてよ
パウダースノウ
パウダースノウ
こころが弱ってるときにコレは
ご法度ってのがセオリーだけど
がんばれ、ここは、がんばって
その闇を耐えぬけ
選ぶな
いま目の前にある終わりを選ぶな
がんばれ、食い縛って踏みとどまれ
なんでもいい
耳を塞ぐ音楽を
眠たくなる映画を
笑っちまえるマンガをさがせ
思考を遮る番組を
声を 肌を
なんでもいいからさがせ
がんばれ!
その小瓶から
刃から紐から黄色い線から目をそらせ!
がんばれ、がんばれ、がんばれ
きみを殺すきみに負けるな
その永すぎる夜を越えて
光射すまで