高畑耕治の詩


夏を鳴く



  恋うた


梅雨みどりの木の間のしめりに
泉ふきこぼれる
清らかな


初鳴き

目覚めたね
かなかな
一度かぎりの
最後の

燃えつくそう
愛しつくそう
ほら
ウグイスもともに
とてもきれいなさえずり

かなかなきみの
愛しい声
生まれ出あえた
よろこびの
別れ去りゆく
さよならの
愛するままの
いのちのくちづけ

殻を破りぬけでて
しわくちゃ泣き顔に折りたたまれていた
こころの羽根
ひらきひろげると
雲間から射すひかりに
透け
浮きあがる
葉脈
若葉やわらかな
微笑みのよう

微風に
こころの羽根
木の葉くすぐられ
木々も
わたしも
いっせいにさやぎはじめる

かなかなかな

いま
空へ
あなたへ

かなかなかなかな

愛するいのちの
夏を鳴く



  挽歌


こすりあわせた
こころの羽根に
祈りの音
沁み
痛み

あの戦争の夏の日の
断ち切られた願いの
悲鳴 虚ろに

かなかなかな

罪詫びず
あやまち恥じず学びもせず
繰り返そうとする愚かなわたしたち
憐れまずには
嘆かずにはいられず
殺されてもさまよい
生まれ変わりいまも
泣いてくださるのでしょうか?

幻聴でありますようにどうか

かなかな

悲しすぎてもいのち
夏を鳴く




* ルビ 愛しい声: かなしいこえ。木の葉: このは。祈りの音: いのりのね



「 夏を鳴く (・恋うた ・挽歌) 」( 了 )

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