高畑耕治の詩


泣いた、赤い月



   空に


夕暮れ汚す戦闘機の
醜音

赤い月
ゆがんで見えた
泣いていた

ひずんでいるのはわたしの瞳?
ひしゃげているのはわたしのこころ?

目をとじ
静かにあけ もういちど

愛おしく
まるい


ああまた厭わしくよぎる
人工汚物



   地に


余震たえまない活火山のふもと
景気よく建ちならぶ人知の最新
最終成果物
原子炉誇らしげに
放射能漏らし
たえずゆれてるゆれてる

シャッター閉ざされた駅前商店街
駆け抜ける選挙カーの連呼おぞましく
経済効果の自己採点まるで
ヘイトスピーチの自己陶酔
酔っ払いの怒号そっくり
ふりあげられた拳のたくましさ
罵声の音量に魅せられ
知力奪われ
盲信いのち
国旗はためくはためく

赤い月
見おろしていた
悲しげに

ゆがみ
ひずみ
ひしゃげ
青い星
傷んでいると

はびこる獣の群れの
吐きだす放射性物質につつまれ
病んでしまったと

泣いていた



  *ルビ 汚す : けがす。醜音 : しゅうおん。


「 泣いた、赤い月 」( 了 )

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