高畑耕治の詩


七夕の、雨ふる夜空に




朝と昼も
夜になっても雨雲
みえない天の川
隔てられたふたりを
想い一日過ごしています
悲しいね

天の川の波間の小さな星のうえ
会いたくて会えないあなたをひとり
想っています
悲しい

読み返してる古今和歌集
今日の頁には七夕のうた
千年以上前からうたわれている
悲しいふたり
七夕
夜空の涙雨
愛しみの雨ふりやまず
つのる想いあふれます
どれほどおおくの女と男
ひとりひとりの
こころとこだま
してきたか
してゆくか
重ねられる想い波だつほどに
水かさまし残酷に美しく輝く
天の川

雨雲の裂け目に傘さし煙る
おぼろお月さま
みえかくれしながら

「 会いにゆきなさい
 波を越えて
 溺れてもいい
 ひき裂かれるよりふたり
 会いにゆきなさい
 嵐のなかを
 愛しつくし滅びなさい 」

お月さまの声にこだまして
呼び求めあうふたりの声

「 会いにゆきます
 溺れてもいい
 愛に生きます
 嵐のなかを 」

天の川の渦巻く荒波に
のみこまれてゆき

こわくてわたし
雨雲の向こう
かくされてしまった月かげに

「 お月さまふたりは
 溺れてしまったの?
 死んでしまったの? 」

雨雲の向こうから穏やかな声
雨音まじりに

「 だいじょうぶよ
 あなたのいる地上は
 暗く重い雲に覆われ
 戦争紛争環境破壊
 災害貧困差別暴力に
 ひととひと隔てられ
 運命の恋びとさえ
 ひき裂かれているけれど
 夜空はいま星のひかりに
 晴れわたっています
 織姫と彦星もふたり
 愛しあえる喜びの声
 天の川のほとりで
 清らかに響かせているわ 」

「 お月さま
 あの溺れゆく悲しみのうた
 この地上のわたしの
 うただったのですね
 天の川あおぐ
 美しいみどりと海をいまも
 汚染水で穢し続ける
 悲しいこの列島の
 嘆きなのですね

 お月さまわたし
 あなたも織姫さまも彦星も
 夜空からひきずりおろし
 溺れたらいい滅べばいいと
 妬んでしまいました
 ごめんなさい

 お月さま
 悲しくても苦しくても
 さびしくつらく痛くても
 大切なひとへの想いに
 こころ澄まし願えば
 愛しあう星のうた
 ふりそそいでくれるのでしょうか?
 夜空ばかりじゃなく
 賢しらな人間に傷められた地上にも
 まだ
 愛のうた切なく
 響いてくれるのでしょうか?
 憎悪の雨雲に覆われ
 わたしみうしないそう 」

流れる雨雲のすきまから
月のひかりそれでも
こぼれおちわたしの
頬にくちづけ
耳たぶくすぐってくれて

「 知らなかった?
 天の川は宇宙のささの葉なの
 さざ波さやぎ
 さらさらささめいている
 天の川のほとり
 愛する想いにきらめく星たちは
 織姫も彦星も
 銀河のささの葉に結ばれた
 七夕の短冊
 ひそやかに願いごと
 ささやいている
 地上のひとのこころの
 またたく願いごとに
 耳を澄まし
 ひかりのこだまかえして
 みまもっているのよ

 厚い雨雲にもさまたげられず
 月のひかりわたしの言葉を
 聞きとってくれるあなただから
 七夕の 雨ふる夜空の彼方に
 はるかな愛しい星たちの
 ささやき 聞きとれるはず
 またたき みえるはず 」

「 お月さまありがとう
 わたし
 天の川大好き だから
 願いごとあきらめません
 この小さな星から夜空あおいで
 天の川の
 星の願いの波だちのしずく
 瞳にうけとめ
 まぶたにたたえ
 この頬の流れ星にするわ
 織姫さまのきもち
 わたしの きもちだもの

 いつも
 いまも わたし
 愛するひとに

 会いたい
 愛しあいたいの 」

「 ほら
 みえるでしょう?
 天の川のささの葉
 いまおおきくしなり
 夜空に橋をかけているわ

 あなたとわたしと織姫と彦星
 ひとびとと星ぼしの
 願いごとつらなる
 たおやかな
 虹を

 天球に
 美しい曲線
 宇宙色のリボン
 わたしの浮かぶ夜空と
 あなたの生きる地上
 結んでいる

 願いごとの短冊
 天の川銀河にささめく
 愛のうた
 いま
 聞こえるでしょう?

 会いたい
 愛しあいたい
 七夕の夜に

 永遠に 」




* ルビ 七夕: たなばた。愛しい: かなしい。
   宇宙色: うちゅういろ。



「 七夕の、雨ふる夜空に 」( 了 )

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