高畑耕治のちいさなお話


葉っぱのハート、すみれに。




   一.お芋は話してくれました。


 サツマイモの葉っぱがどんな形か、知っていますか?
 ハート型なんです。みどり柔らかな。
 凍えがちなわたしを温めてくれた葉っぱ、サツマイモのハートのお話をあなたに、伝えずにはいられなくなりました。

 土に返してあげるにはもう寒すぎて、霜柱が輝く朝もあるので、赤紫のサツマイモは冬のあいだわたしの部屋の机の上にいたのです。
 少しずつしわがふえ細りゆきながら、幾本か伸びた茎の先にちいさな葉っぱが悲しげに手のひら開こうとします。
 美しい赤紫のサツマイモから咲いた淡い緑の葉っぱさん。
 でも季節外れ、大きく葉っぱを広げられたのは、ただ一葉のハートだけ。
 毎日わたしに微笑んでくれていました。

 そんなある日、ハートの葉っぱ、わたしに囁きかけてくれたんです。
「 まだ、だいじょうぶだよ 」
 沈み、ふさぎ、閉じこもり、引きこもりがちなわたしに。
「 まだ、ハートは、あるから。だいじょうぶ 」
「 葉っぱさん、ハートは薄桃色よ。なのにあなたは、緑。悲しくないの? 」
「 薄桃色にずっとなりたいよ。でもぼくはお芋。桃の実じゃないから。葉緑素がゆるしてくれません 」
「 どうしてそんなに綺麗なハートの形なの? 」
「 きみとぼくとの、二人だけの秘密にしてくれる? 」
「 うん、いいよ 」
「 あのね、ぼくは昔きみと同じ人間、二十歳まえの青年だったんだ 」




「 葉っぱのハート、すみれに。一.お芋は話してくれました。 」( 了 )

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