高畑耕治の詩


ひなの星



  


ひなのお墓 いつもまにか
あんなに明るく
朝日がさしているようです
わたしのこころの時間だけが
止まったのでしょうか
わたしもこの子とあちらにもう
逝けたのでしょうか
土がもちあがり割れて
芽がくびをもたげるとすぐに
茎がぐんぐんのびてゆきます
するとほら
かわいい ちいさな あおい花

咲いたのです
毎朝ぴよぴよさえずったおまえの
つぶらな瞳のまたたきのよう
花びらひらひら大きくひろがってゆくと
美しい曲線 しなやかな
羽根のよう
いちども 飛ぶことができなかったおまえの
羽根の花
風にそよぐと はかなくも
散り ひとひら ひとひら
舞いあがってゆきます
おさな子の 
初めて飛んだひなの
さえずり
朝焼け空に満ちて

  お母さん
  泣かないで
  嘆かないで
  悲しまないで
  あなたの涙に
  あなたが痛めてくれたこころに
  あなたの愛にぼくはもういちど
  生まれたよ
  お母さん
  泣いてくれて
  嘆いてくれて
  悲しんでくれて
  ありがとう
  死んでも愛しつづけてくれたあなたの
  色鮮やかなかえでの葉
  七色の美しいささめきに
  ぼくはいまも いるよ

愛と悲しみの うたの花
咲かせたおさな子たちは
羽ばたきひるがえり連なり
泣きながら飛んでゆきます
涙のしずく 雨のしずく ふりしきり
朝のひかりに眩しくきらめき



はかないかすかな七色の
優しい弧
乳房のふくらみ
飛んでゆくおさな子たちを
淡くせつなく そっと
抱き寄せていました
消えてしまうそのときまで

  母愛し





  *ルビ:時間(とき)。逝けた(ゆけた)。七色(なないろ)。愛し(かなし)。



「 ひなの星 ・ 虹 」( 了 )

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