高畑耕治の詩


ひなの星



  ほたる


額にかかる髪つたう雨のしずくも
さびしいひなの死を
泣いてくれたのです
ひなのお墓に
ぴちょぴちょ
この子のさえずりに似たかよわい
悲しみのうたの花
捧げてくれたのです

かえでの樹の声なぜかなつかしく
ふいにわたし
思い出しました この声
大好きだったわたしの
おばあちゃん

病院の廊下で早朝たおれ
亡くなる直前
おさなく亡くした末っ子の名を
呼びつづけた
おばあちゃんの悲しみの

  わたしのせいでしょうか
  ああ わたしのかわいいかわいい
  いとしい いとおしい
  いたいけな おまえ
  たいせつな おさな子
  きかせて かわいい声
  わらってつぶらな目で
  わたしのせいね
  ゆるしてね おまえ

かえでのさやぎ
おばあちゃんのささやきは
風に運ばれ遠い世界まで
ふくらんでゆきました

林の葉むらからの木洩れ日も
森の奥深くからの木魂も
松林ふるわせる海鳴りも
アイヌの森のユーカラも
愛しい調べに涙ぐみ
悼みのうたをくちずさみました

暴風に 若葉を枝ごともぎとられ
豪雨に どんぐり吹き飛ばされ
津波に おさな子うばわれ
泥まみれにぼろぼろにされても
うたいやまない
母の 魂の
愛しみの言の葉は
さやぎつづけているのです

  わたしのせいでしょうか
  ああ わたしのかわいいかわいい
  いとしい いとおしい
  いたいけな おまえ
  たいせつな おさな子
  きかせて かわいい声
  わらってつぶらな目で
  わたしのせいね
  ゆるしてね おまえ
  わたしも
  逝くよ かならず
  逝くよ
  おまえに会いに
  もういちど
  おまえを
  抱きに

お母さんひとりひとりの
悼みのうたは
闇を舞いつづけるうちに
やがて ぽっと
燃えあがるといいます
せつなく哀しい
ほたるに なるといいます





  *ルビ:愛しい(かなしい)。愛しみ(かなしみ)。逝く(ゆく)。



「 ひなの星 ・ ほたる 」( 了 )

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