高畑耕治の詩


死と愛。

  プロローグ 死。手のひらと肌と。
     ( 母から、祖母に )


高齢の母は病院帰りに倒れました。
気づくと息をしていないのです。
急いで引き返した病院で、蘇生しました。からだは、鼓動は。
意識は、戻りません。それきり、
会話はできなくなりました。

病室で、からだを撫でさすります。
生きていてほしい。もういちど目と目で微笑みあい、
話しあいたい。私、願い、
手のひらに母の温もり感じ、毎日、撫でさすります。
ときたま、母はピクッと、肌をとおして応えてくれます。
凍ってしまった意識、手のひらの温もりで、
どうか溶け出して。私、祈りました。
母のこころの、残された柔肌に、私の想いきっと沁みてゆく、
そう信じて。

お母さん、倒れてからの無言の、寝たきりの毎日、
苦しかった? 痛くはなかった?
意識戻ってほしい、もういちど話しあいたい、
願いつづけたけれど、
かなわなかったね。でも私、手のひらで、
お母さんのこころの肌、お母さんを感じていたよ。

お母さん、お父さんに会えましたか?
お墓にも、靖国にも、ほんとはいないお父さん。
お父さん、どこにいったのでしょう?
遠い南の海で戦死したと宣告された、
いつまでも行方不明のお父さんに、
会えましたか?
西方浄土で会えましたか?
お父さんを奪われたあの日から、
ずっとひとりで育ててくれたね。ありがとう、
お母さん。

教えて、お母さん、
私も、会いにいきたいの。
ふたりに、もういちど、
会いたいの。


「 死と愛。プロローグ 死。手のひらと肌と。( 母から、祖母に ) 」( 了 )

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