2011年〜永劫。
福島、牛の目は
私は牛です
前世は人でした
いま牛です 東北福島の
あの日牛舎は激しく揺れ
それきりです
もう人間 現れません
餌はなくなりました
足折り崩れ
腐爛してゆく
幼なじみ
子牛たち
仲間たち
あの日から福島の
鳥泣き魚の目は泪
犬の目は泪
猫の目は泪
死の匂い立ちこめ痛く沁み
わたくしたち牛の目は
泪流れるばかり
前世は人でした けど
もう言葉思い出せず ただ
もうもうと泣くばかり
牛のこころの詩
泪に宿すばかりなのです
大切なまち
愛するまち
育ててくれたまち
原発なんてなかったまち
汚染されていなかったまち
わたしと友だちのまち
海と空
野山のみどり
美しい大地
海を 山を 川を 野の花を
死んでも忘れられない
かけがえのないただひとつだけのまち
あだたらやまが好き
あぶくまがわが好き
草花 小鳥や昆虫 犬や猫
わたくしたち牛
ともに育ち生きる大切な
友だちを 穢し隔て殺したもの
ふるさとを 汚し奪うもの
ゆるせない
愛する少女牛に
もういちど 会いたい
青い空の白い雲のした
やわらかな草を食み
おなかの底から
もおおお
おおらかに歌いたい
ああここはどこでしょう
なつかしいあだたらやまのふもと
草原でしょうか
月夜おぼろ
放射能に汚染された濃霧
死臭立ちこめ
もうろう
なにも見えません
この波の音 あぶくまがわのよう
ああ愛する少女牛の声
愛し合いたい
もういちど
福島で
呼んでいます
向こう岸のようです
もう逝けるようです
わたしも