高畑耕治の詩


記憶の肌着

闘病生活の最期に淡々と
教えてくれました

おばあちゃんは亡くなった朝早く
病院で転び落ちた床を這い
幼いまま死なせてしまった末の子の名を
呼び続けていた


ふるさとの父と母 ぼくの祖父母は
引き上げられた沈没船の階段出口で
手をとりあい横たわっていた

赤ん坊だった妹は見つからなかった
まだ小さかったからきっと
魚たちに食べられたんだ


幼い日稲穂の波ゆたかに揺れるあぜ道で
米軍戦闘機の銃撃を浴びた

燃えあがる隣町で逃げ惑う人たちを標的に
執拗に落とされ続けた爆弾の炎の酷(むご)さを見た


忙しく立ち働く夜勤の看護婦さん
負担をかけたくないとトイレまで歩こうとして
歩けず転び いのち縮めた お父さん
まるでおばあちゃんをまねたような
お父さんが好きです でも
ごめんなさい

お母さんをまたぼくは
悲しませてしまい
なのに送ってくれた荷物 はさまれていた言葉
なおさらひどく愛(かな)しく

「あなたを信じています
お父さんの肌着を送りました
お父さん見守ってくれているよ」

まだ冬 寒いです
記憶の氷 悲しい痛みを
砕き 溶かしだし 最期に
伝えてくれたね
お父さん こころの
肌着

あたたかいです


「 記憶の肌着 」( 了 )

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