高畑耕治の詩


なみだ


父は両親を
母は父親を
ぼくは
おじいちゃんをふたり
おばあちゃんをひとり
奪われた
あの戦争に


  な

泣き顔をいちども見たことがないぼくは
思いこんでた お父さんは
泣かないって

この地上で出会えた ひとりきりの
ぼくのおばあちゃん
時のむごさを生きぬいたひとの
優しいやわらかなまなざし
愛(かな)しいまなざしが
静かに閉じられた日

電話のむこうに父の
なみだの声 はじめて沁みた父の
悲しみの声

こころに いまもふるえる

ふるさとにわかれた日
ながれはじめた車窓のむこう
遠ざかってゆく母の
ちいさなかお
なつかしい目じりのしわに
ちいさなしずく 愛(かな)しく
ひかった

こころに いまもゆれる


  み

汚い都市で転がりけがれ
ひしゃげくだけた夢の花粉の火薬だま
夜空に散り咲きたいとだけねがう
雨にしおれた花火だったぼくは

尾っぽをうちたたきもがく金魚だった
夏祭りの夜店の灯りきらめくこ波
破れた紙のすきまから ぽちゃん
落ちたのかすくわれたのか

あがくうろこから目から
ぽろぽろぼろぼろとめどなく
咲き散りこぼれた
しお水の花火

こころに いまもひりきり
ふりしきる


  だ

泣いてくれる
こころを痛め あなたは

ながしてくれる
なみだのあなたに
あらわれ

おもえる
生きようって
あなたの
なみだになりたい

はかない水たま
ふるえ
こわれ

きえず
こころに

ひかれ


「 なみだ 」( 了 )

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