高畑耕治の詩


愛と祈りの星魂(ほしだま)の花


 星魂の花


 おかあさん、守ってください。もう逃げられない、もうどこにもゆけない。
 おかあさん、あんなに好きだった、幼い日あんなに好きだった果実、 あのみずみずしい果実をぼくは、食べられなくなりました。
 離ればなれにひとりひとり、悲しんでいる生きものたち、苦しんでいる 生きものたちのそばで、ひとり膝小僧をかかえ、俯いています。

 あなたの声、星魂の声がなぜ聞こえないのでしょう。あなたは、
 星魂の花はもう、咲かないのでしょうか、枯れたのでしょうか。
 星魂の豊かな果実をもぎとりぼくは、魂を失ったのでしょうか。

   考えても考えても苦しくなるばかりです。硬いかたち、壊れない物を 打ち建てたつもりで拵えてしまった、やわらかな皮膚を傷つけ壊す瓦礫。
 土に触れず手を汚さずに傷つけ汚(けが)すことを繰り返しながら、 掌を、手触りを、忘れてしまいました。痛みを、感じとれなくなりました。
 こころは頑なにこちこち音をたて、軋み、さらさらさびしい風に晒されています。  なんだかとても寒いのです。温めてください。あなたの温もりを、思い出したい。

 どんなに辛く苦しい時にもあなたは、見守ってくださいました。過ちを繰り返す ぼくを見捨てず、こころに囁いてくださいました。

「 ひとに生まれたけれど、あなたはひとりじゃない。生きているのは、ひとだけじゃない 」と。

 あなたは星の魂。この星のこころ。
 宇宙に咲く美しい青紫の花。星魂の花。
 あなたが萌え花ひらく時、闇が愛いろに、染まってゆきます。

 からだはこころの果実だと、教えてくれた、あなたの乳房。白く美しいあわ雪。 あなたの傷つきやすいやわらかな肌。遥かな山なみ。裾野にひろがる豊かな森。 萌えるみどり。草木に跳ねるひかり、あなたの微笑み。
 微風を、あなたの息を吹きかけてください。
 潮騒でつつんでください。
 あなたの子宮、なつかしい海に抱かれていた日、あなたと 結ばれていたあのとおい日を、思い出したい。

 愛するひとを抱き、抱かれて、初めてこころに海を感じた日。愛(かな)しみの波まから見あげた青空にも、あなたはいました。
 ひとりひとり、あなたに育てられたふたり。
 抱きしめあい、交わりあう喜びにふるえながら、海と空のあわいを あかく染める、あなたの愛(かな)しみを知りました。

 あなたを想うと、涸れたこころが潤い揺れうごきます。ぼくは癒され苦しみも、あなたの 涙に溶けてゆくのです。

 あなたの涙は愛(かな)しみの果実だから、ふくらみ、たわみ、 こぼれ落ちると、この星の地に種子を宿すでしょう。
 死んだ生きものたちのこころが息づく、あなたの精を受けとり、この地は孕み、ふたたび 愛が芽吹くでしょう。
 涙に育まれた愛が、香りはじめるでしょう。

 香りはおんぷ、美しい歌声になり、微風に舞いあがるたんぽぽのわたぼうしのように、 どこまでも飛んでゆきますように。
 ひかりに溶けてゆき、青空にほんわり、この地をやさしくつつむ、わたがし雲が浮かびますように。
 さえずる小鳥たち。はばたきに耳を澄ませる生きものたち。飢え渇いているわたくしたち 生きもののこころに、あなたの愛、あなたの祈りが香る、なつかしい白い乳を降りそそいで くださいますように。
 あたたかなこな雪を降りつもらせてくださいますように。

 あなたの祈り、あなたの愛(かな)しい歌声が、わたくしたちの からだ、こころに沁みわたり、いのちの鼓動、愛しあわずには生きてゆけない、生きものの 愛(かな)しみを揺り起こしますように。
 ひとりひとりのかけがえのないささやかな歌声が、響きあいますように。
 あなたが根ざす地に脈うつ、地の流れとなりますように。

 おかあさん、守ってください。
 わたくしたちの貧しいこころに、もう一度、美しい星魂の花を咲かせてください。
あなたの、愛と祈りでつつんでください。
 わたくしたち生きものは、あなたの乳房からこぼれ落ちた滴、愛(かな)しみの花に生まれた、小さな果実ですから。


「 星魂の花 」( 了 )

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