高畑耕治の詩


アゲハ座へ




独善と我欲と憎しみと征服欲と
復讐と破壊と暴力と恐怖の世の
殺りくのどす黒いおぞましさに
うなされるこの星の眠れない夜にも
ふいにあなたは
訪れてくださりました

天井の暗闇から
瑠璃色の輝き
らせんを描き舞いおりながら
滝の飛沫の光まき
滴まぶしく跳ねおどると
星の香たちのぼり
紡ぎ織り
羽もよう
静かにひろげていました

「 ああなんてきれいな
 羽
 きみは
 チョウ

 おぼろな幻の
 星の微かな瞬きの
 羽音
 きみは
 クロアゲハ?
 黄の縞
 ナミアゲハそれとも
 瑠璃の
 アオスジアゲハ
 なの?」

「 天のアゲハ
 星の精
 です わたし」

「 どうしてぼくを
 救いあげて
 くださるのでしょうか」

儚げな羽の精
わたしの胸に
花びらのように優しく
そっととまり
頬にくちづけ
みみたぶに息をふきかけ
ささやきます

「 わたしはあの日
 山の頂で
 樹の枝からつりさがる星の糸が
 ひっかかりあなたのリュックに
 載せられ街に連れ去られ
 死にさらされてしまった
 ちいさな弱い
 山の若葉色やわらかな
 青虫でした
 わたしに気づくと
 あなたはあやまり
 わたしを野の花へ
 そっと置き
 飛び立ちの日の無事を
 祈ってくださったでしょう

 花もうたってくれたの

  報われることのない悲しみは
  儚い蝶の花
  報われることのない夢の
  美しく優しい
  透明な
  羽
  悲しくても

 うたをやどしみちびかれ
 わたし

 あいにきました

 さあ
 憎しみの血を
 地をこえて
 ゆきましょう」

いざなわれるまま
光で紡ぎ織られた銀河の羽に
抱きくるまれ
旅立ちました
夜空へ

遙かな旅です

漆黒の闇に
星の光を
赤 アカムラサキ
紫 アオムラサキ
青 ミドリ
黄 オレンジ
金の滴ふるえる
花環を描き

星の光の息
やわらかな香りで

戦禍におびやかされ恐怖に
眠れない子どもたちを
くるみ 夢を
あたためたい
それだけをねがいながら
天の川わたり

なつかしいあの
けして失われることのない
星の絵本
悲しみの紡ぎ結ぶ
永遠の 美しい
星座

アゲハ座の

愛へ





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