みつめているよ、
いつまでも
どのくらい眠ったのでしょう。
ぼくは眠りつづけました。眠ることが救いでした。
つらくなったのです。逃げ惑う弱い生きものを追いかけ、捕えようとする瞬間、殺された母の姿が重なってしまうのです。動けなくなるのです。
悲しい草原を離れ、あてもなく歩きつづけたぼくは、いつか眠りに落ちていました。
眠りは豊かな海なのでしょうか? 波に揺られ、沈んでゆくと、沈黙の底になつかしい音、母の心音が聞こえたのです。羊水のやすらぎにくるまれたのです。
「 あなたは戦わなくていい、なにも考えなくていい、おやすみなさい、すべてを忘れて。
揺れていなさい、瞳を閉じて、私の涙に。涙は誰も傷つけないわ、疲れを溶かしてくれるわ、悲しみを癒してくれるわ 」
「 おかあさん、でもあなたの悲しみは誰が癒してくれるの? 」
「 あなたの瞳よ。初めて開いたあなたの瞳、あの輝きをわたしは忘れない 」
どのくらい眠ったのでしょう。
気づくと、潮騒に包まれていました。深い眠りの波間から、ぼくは浮かびあがり、大きく息を吸い込みました。
潮水が瞳をあらってくれたのでしょうか。ひかりは、なんてまぶしいのでしょう。
瞳を初めて開いた、あの日のように、この世界は輝いていました、母の微笑みに満ちて。
「 おかあさん、目覚めるたびに、世界は新しいんだね、この一瞬は二度とないんだね。
愛しみに透かされるほど、ひかりは澄んでゆくんだね。まぶしく沁みるんだ・・・。
こころの瞳を開いて、ぼくはあなたをみつめているよ、いつまでも 」