ぼくたちは棲みなれた森を奪われ、小川に沿って逃れてきました。でももう、行き止りです。うずくまり、うつむくぼくには、水の輝きばかりが、なぜかなつかしいのです。
幼い日ぼくは、小川の源を訪ねました。
草木のかおりを胸深く吸い込み、木漏れ日を浴び、枝から枝へ夢中で渡ってゆきました。
ひそやかな木陰の茂みをふるわせ、土を潤し湧きあがっていた、水の輝き。思わず口づけた、あの美しい源にはもう、戻れません。
落ちてゆく夢を見ました。なんにも見えない暗闇にどこまでも吸い込まれてゆくのです。
どこからか、歌が聞こえてきました。すると暗闇に、無数の光が灯ったのです。
どこからきたの? どこへゆくの?
星の滴は いのちの滴
あ、あの輝きは星の光なんだ・・・。ぼくは、落ちてるんじゃないんだ、流れているんだ。どこまでも遥かな星空を今、旅しているんだ。
草の葉からこぼれ落ちた滴に頬をくすぐられ、目覚めると、土のかおりがしました。
木立の上には、あの、満天の星たち・・・。
なぜか寝転んでいました、が、痛くて動けません。あ、木から落ちたんだ・・・。でも耳もとで小川が囁いているのは、あの歌です。
生まれた時から 流れていました
生きてるかぎり 流れてゆきます
小川の滴は いのちの滴
愛(かな)しく光 流れ星
痛くて泣いてるんじゃありません。
星空を見上げるぼくの瞳に、どうしようもなく湧きあがるのは、涙じゃなく、ぼくの愛するこの森の、小川の、たぶん星の、滴です。