高畑耕治の詩


 おさるさん の心


星の海辺の小さな森で


あんなにたくさん星はあるのに、おんなじ星ってひとつもないのね。ひとりひとり、瞳の色のちがう星たちが、愛(かな)しい音色をふるわせながら、宇宙の海に浮かんでる。

 こんなに多くの生きものたちがいるのに、あなたとわたし猿に生まれた。星のひかりが打ち寄せる渚の、ほんの小さな砂粒ふたつ、この星に生まれたのね。

 多くの猿たちが生きる小さな森で、ぼくはあの女(ひと)に出会い、あの女を愛しました。星空を愛し星に祈ったあの女は、人に襲われ、殺されました。ぼくは星に叫んだのです…。

 この女の痛みを星は感じない。いのちが消されても平気だなんて。ぼくは猿、猿を愛する猿なんだ。戦争だらけの、人に汚された、この星のために生まれたんじゃない。この星のために生きてるんじゃない。この女が生きられない、こんな星、いらない。

 涙が頬を伝い、あの女の閉ざされたまぶたにこぼれ落ちました。と、囁(ささや)きが聞こえたのです。もう瞳に星を浮かべることのできないあの女の祈りが、ぼくを優しく包み、柔らかなひかりがこころに差し込んだのです…。

 星を憎まないで。わたしこの星が好き。
 この星がふたりを育ててくれたんだもん。いま、あなたが生きているんだもん。
 わたしにできるのは、あなたを愛することだけだった。この星が抱き締めているひかりを、小さなからだの温(ぬく)もりにして、あなたを温(あたた)めることだけだった。

 愛するこころは壊されない星の森なのね。星のひかりが打ち寄せるこの星の海辺の、小さな輝き、あなたの森にいまわたし、生まれたの。あなたのこころの星になれたの。
 見つめて、わたしを、星を、愛してね。



「 星の海辺の小さな森で 」( 了 )

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