人嫌い、恋しいものは
花ばかり
さくら散り枝葉うす緑
名残りの花びら
水面にゆらめき咲いて
穏やかな湖面
鳴きかわす声もなく
静かなきらめき
風と光が描くばかり
水鳥渡り鳥、冬の鳥
羽ばたきの花びら
どの空へ舞い去ったのでしょう
春がすみに溶け消えたカモたち
飛翔のうしろ姿
透明な羽ばたきのあと
さくら色の
風と光ばかり
遠く遙か
この世の境界を越えむこうの
清音の湖に
羽ひろげ舞い降り
水面に花びら
こまやかなささ波の輪
描いているのでしょうか
まどろみから目ざめれば
ツツジ
つつまれておりました
つぼみ ふくらみ くちをあけ
赤淡い紫
白 うすもも 真紅
まぶしく
コブシも手のひら結びひらき
白モクレン 紫モクレン
おおきく燃え
ゆれたゆれていた
ユキヤナギの純白
ヤマザクラの淡い
さくら色の風
もうありませんけれど
八重ヤマブキの黄
やわらかな葉の緑
花ふさゆれ鳴る
藤うす紫
白く
朱く
ハナミズキ
かろやかにのびゆく
歌声
ジュウシマツとさえずり交わし
青空の湖面へ
輪唱の
水紋
幾重にも
ゆらめき溶けてゆきます
われも人、きたない世の人
恋しいものは
花ばかり
欲得まみれの
貶め合いも罵り合いも蔑み合いも
醜悪さも汚濁も
愚かさおぞましさ もろとも
散りぢり、消えて
ひとふさひとふさの
ひとひらひらの
露ひとつぶひとつぶ に
花の音
花の色
映り透かされ
浮かび
結び
遙かに
春
咲きよみがえるのです