高畑耕治の詩


氷桜( こおりざくら )の幻に





目覚めるとすべては幻でした

人に生まれ落ち
書かずには読まずには歌わずには
愛さずにはいられない
詩魂は不幸な
幸せ

真善美中毒者真善美オタクとしてしか
生きられない堕天使まがいの呪われた子として
災いのこの世を生みだし支配する
創造悪神、禍津日神に
抗わずにいられないプロテスタントの
呪われた宿命、星のもと宿されたいのちとして
満ちる災禍に
悲しみ苦しむ生き物の十字架の森の
いけにえとして
言葉の鳴き声を託された子として

この世で幸せになれるはずはなく
なってはならないと
宗教者まがいに苛まれ絶え間ない
宗教戦火の偽悪醜の逆接に絶望しつつ
抗うことを諦めないことでしか存在できないと
痛みの地獄にちりちり堕ちつつ
昇天する星くず流れ星
闇宇宙に
花あかり
灯し

草木とともに
萌え、うちふるえ
咲き
風と水に光に
初恋は
けがされないままあの日の姿で
消えてゆくばかりに澄み透り優しく
きっとあるはず

悲しみの音楽ばかり美しいから

追い求めさまよい耐え滅び
愛しみ嘆きの
涙になりつくすのなら

厭われる雪の
凍える無垢の
幻の歌の
旋律に

ふるえ舞う絵の具の濁りも
色を失い透きとおり
やがて静かに

無色無限色の
氷桜

咲き満ちるでしょう
地と
満天に
咲き散るでしょう

夜明けには
溶け果て消えてゆけますように

あの花の
瞳ばかりはこの世でさえ
きれいでした
あの花までも
幻でしたのでしょうか

死には愛が
ありますように
きれいな詩に
目覚められますように




※読み 氷桜: こおりざくら。悪神:あくしん。
禍津日神: まがつひのかみ。愛しみ: かなしみ。



「 氷桜( こおりざくら )の幻に 」( 了 )

TOPページへ

新しい詩
目次へ

サイトマップへ

© 2010 Kouji Takabatake All rights reserved.
inserted by FC2 system