高畑耕治の詩


時の本の透明花




購入し届いた古書に
添えられていた走り書き

「 亡くなった父が青春時代に
愛読していた本です 」

裏表紙を開けるとうすく
青インクにじみ
かすれ

「 退院し、書店で購入1945 」

生まれるまえのわたし
まだどこにもいない
そのとき

手のひらに指に
瞳に
愛された


時を紡ぎめぐる
花の環
結ばれていまわたし
ひとひらの


始まりも終わりもなくただ
ぱらぱら風にめくられる
時の本の透明な頁に
はさまれうっすらやがて
無色になってゆく
押し花

開かれふいに
はらはら
流れおちる
あの日のあなたのおもかげ
花のかたみ
かたちおぼろげな
花びらの
無音の滴
涙花

散り果て
終末始原へ

目を閉じ
眠り
めぐり
咲きにゆく




※読み 透明花: とうめいか。涙花: なみだばな



「 時の本の透明花 」( 了 )

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