高畑耕治の詩


愁、楽章




 


見えない風のおとずれに
ひるがえり
ほお
赤らめ

耳もとそっと
囁く

秋、




 



まぶたをあけみわたすと
銀の穂波
ススキに
月の滴
ゆらめきに
まもられ
傷口は
ふさがれていました

ほおをくすぐられ
うながされ私の
背中のくすぐったい
透明な羽も
秋の音
奏ではじめていたのです

戦火の
災害の
都市と村と森の夜に

眠りの
稔りの
祈りの
鎮まりの

音楽を




 



野にさまよえば
輝き匂う
金の花波
オミナエシ

会え、微笑み


遠い時

待ってくれていたかのよう

かなしい
咲き顔
しなやかしめやかな
立ち姿のように

生きめやも




 



秋の花、秋の歌のそばに
たたずみ、

( いつも胸苦しく
 つまってしまいそうな )

息を、
しました。

唇を花びらと
かさねあわせ
ふかくあわく

秋を吸う


風、

見あげれば
梢の
木の葉
音符の小鳥たち

( 飛び立てるでしょうか
 わたしも )

もえて
虹色

愁いの楽章にも
美しく




※読み 愁: しゅう。楓: かえで。音: おと

※本歌 「古今和歌集」
秋来ぬと目にはさやかに見えねども風のおとにぞおどろかれぬる
藤原敏行

※ 参照 風立ちぬ いざ 生きめやも。
( 風が吹いた。生きずに、いられるか、いられない、か。  生きよう。 )
堀辰雄「風立ちぬ」、ポール・ヴァレリー「海辺の墓地」詩句。スタジオ・ジブリ映画



「 愁、楽章 」( 了 )

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