高畑耕治の詩


星渡り舟歌




わたしは歌人、詩人の直系ですので
五月あおぞら爽やかなのに
声あげて歌えず、憂うつの波間の
鯉のぼりになってしまいました

旅をかさねた星くず
滴りおちるものはといえば
十九の夜から変わらない
心渡りの航海日誌
星の海辺の
心象旋律




 綿毛 ☆の詩


遠くへ
ゆこう

ゆきさきなんて
どこでも
なくても

タンポポの
綿毛飛行船に
透明なみえない姿で
のっているあの
花の小人
黄の精とともに

遥かはるか遠くへ
悲しいここ旅立ち

飛んでゆけ




 不良の花 ★歴★年★月★日



自画像を
鏡の湖面のむこう
触れえない静けさに
ナルキッソス気取りで
みつめれば、
みつめかえしてくれるあいつは
スイセン
ではなくただの
落ちこぼれた

不良。

らしく
生きろと、
励まされ。

お黙り。シッ。静かに。
さざ波をたてるな。
息をするな。
醜いシワ、シミになる。

青空いったいの
水面を
恋い
願え。

青空。
いったいに息絶えた
水面の、
あおに。

身うごきすることなく、
とまり
うすれ
きえてゆけ




 絵描き ★月★日



絵を描くなんて
世間体世渡りを省みない
原始的衝動に素直な
生きざまでしかなくて

好きだ

詩を選ばざるをえないのと
おなじほど無謀で無惨で
純粋で

変人には変人なりの、尊さがある
あやうさとうらはら紙一重の引き剥がせない
刹那のせつない尊さ

儚いばかりでむごく
きえることなく
生死をこえて尊い
ひととひとの
恋のようなもの
愛のようなもの

・・・なんて投げやりな

古めかしい
投げやり・・・
なんて言葉を
時代を越えて変えられようもない
標準語変換すると

なすすべもなく。
なさざるを
えず。

生きもの、人は神さまさだめの
操られ人形か

せめて
船人不幸にしても
歌うたうしかなかった
海の岩のうえの
孤独な精霊
操られ人魚に

なしてくだされたなら
なされるまま波間に




 詩書きと歌姫 ★月★日



詩書きなんて
人魚の歌姫に
夜の海の幻の美に
とりつかれたもの

なんて言わず甘えず逃れず
できることを
せずにいられない
切実なことだけを

限られたいのちの
いまこの瞬間に

ふらふらするのが好きな
軌道にのれない
フウテン風狂
流れ星くず

最期には
せめて
輝け




 きれい ★月★日



十代二十代のあやうさの
境界線上の綱渡りでわたしは
誓い思い定めたことがひとつだけあって。

宇宙星世界いのちの時空の不可思議さを
感じとる心だけは、生きる限りは
見失わないと。


見失えずヒリヒリ傷んでいるばかりでも。
いまも。

きれい、にだけは、救われる
マボロシダカラ

救いなんて、あるかないか、わからない、
えらべない、生きもの、でしかありえなかった、
としても。




 耳もとに ☆の詩



無限暗黒宇宙にも遥か遠くから
スマホに声
あなたの声ばかりが
耳もとかすか
生きること
つなぐ
星の




 デフォルメの妖 ★月★日



演じられた被写体
世界のデフォルメ
こころのおくそこで
のぞむ不幸
幸せへの
あこがれ

世界宇宙現実と呼ばれ
おもいこまれているのはたぶん
万華鏡
無数のいのちひとつひとつかぎりの
瞳を透かして
デフォルメされた
星の絵で
織りなされた
天の川

人が生まれそこでしか
息できない
めくるめく
錯乱えいえん反射鏡
それでもたぶん
きれいな

黒い海にたわみかかり
岸壁の灯台に崩れ落ち
結ばれる夜の
虹の導きの

幻の橋




 カニとカエルと ★月★日



夕陽きらめくなぎさで
砂浜を掘りかえす
少年たち
見つけられてしまった
カニ
きみにであった
カニとして生き死にすること
どういうことなのでしょうか

人影の消えた公園わき
夜道を横切り跳ねてゆく
カエル
きみにであった
カエルとして生き死にすること
どういうことなのでしょうか

カニとカエルと出会い
さようなら永遠にお別れした
ヒト
ヒトとして生き死にすること
どういうことなのでしょうか




 ウインク ★月★日



あがいても圧倒的な
過去現在未来あちらこちら
見渡せるかぎり
暗闇なのだし

めぐりあえた
瞬間の
意味なくとも
ときめきに

星くずなり
せいいっぱいの
こころこめて
ウインク
してやれ と

あなたの
ウインク と

不可思議の
えいえんの
きらめきの
波間
みつめあえたのは

なぜ?




 色彩音楽 ★月★日



自然世界宇宙の色彩音楽
人工カメラの
精緻な画素にも
言葉の画布にも
写しきれず
あふれだしてしまう
ゆたかさの
海の波の
星空とおくへの

無限色楽譜




 なみなみだ ☆の詩



きれい、なみだもなみにとけともに
なんともなくとも
空みあげ
ないている

水平線
星の
瞳の
まるみ

青は無色に澄み
無色は青に無限にとけ

みつめ
はりつめ
なみはゆれ
なみだゆれ




 なぎさ ☆の詩



夕陽のなぎさ
さざなみ金の
藤の花
誘われる花嫁のため
敷きつめられて
黄金光粒

西の波
西の空に
招かれるまま

遠くへ
ゆこう

ゆきさきなんて
どこでも
なくても

ここから
とおく
彼方へ




※読み ☆:ホシ、またはホシクズとも。
    ★:ホシ、またはクロボシとも。



「 星渡り舟歌 」( 了 )

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