高畑耕治の詩


クルミの貝殻



 終曲 潮騒


貝殻は砕けた記憶
嘆きのなぎさ
悲しみの
海の

星屑は逝ったひと
ねがいの割れた
クルミの貝殻
静ひつなひみつのなぎさ
うちよせる産声
永遠に




 追想曲



咲きたくて枯れたくなくて散りたくて

ふるるふるえ微笑みの風の
善意か悪意カミホトケアクマエンマ
ふいにトウトツに散らさるる

美しい紅葉の彩りに染まりつくすまえ
木枯しに散り散りに砕かれつくすまえ
濃い光と影に焼かれ
夏の青と秋の赤のあわいの
やるせないゆるせない
きれいな季節に残酷に
ねがい

 かなえられたのでしょうか
 砕かれ壊されたのでしょうか

サカシラナ人間のおこない
くるみこむ死生の宇宙の
季節のまにまに
咲き散るばかりに
あなたのねがいも悲しみも
憎しみも苦しみも愛も
祈りも嘆きも
遅れてわたしも

真夏のセミたちの陽射し
秋空の虫たちの風の音

 もういない
 わからない

たしかなのはここに
あなたがいないこと
いても 
おとずれを
教えてくれないこと
わたしにわからず届かないこと
いま伝えあえられないこと

あったあのときの
あなたを愛おしみ
抱くばかり
冬まで生きた報いの
傷み
深い罪に


凍りふるえるあの美しい
オリオン座の星と星の
隔たりさえ結ぶ
瞳に痛い
光の氷の
無音の音楽のよう

 さようならとしかいえない
 さようならとは いわない

あのひとが
フコウだったか
シアワセだったか
オマエにわかるはず
なんて
ない

 ねがうことだけはできても
 オモイアガルナ

ひとりひとり
ダレニモシラセズ
どこともしらせず
抱き逝き
散り咲き

 星の精
 花の死
 生

凍り香り輝くため

硬くかたく永遠の
クルミの貝殻に
くるまれ

あの日の母だけの
産みの苦しみの
波を越えてくれたあとの
やすらぎのまなざしの
やさしいなぎさに
もういちど
こんどこそはどんなことがあっても
むくいたい


生まれてくる
その日のため




 序曲 宇宙風鈴



海と空
遥かなあお
かすむ水平線の彼方の
あわいに
洗われ
色も香も文字も
旋律も

星の微香
花の微光

生きものの
鼓動と

痛みの孤独の
果てに

貝殻宇宙のまるみ
時空風鈴のクルミ
無音無色無香の
光と影
風の波
ゆらら
らら


ゆらめき
まどろみ
きえさり

また

めぐり
めざめ
かなしみに

鳴る




※ 読み
紅葉: もみじ。散り散り: ちりぢり。風の音: かぜのおと。
抱く。抱き逝き: いだく。いだきゆき。



「 クルミの貝殻 」( 了 )

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