高畑耕治詩集『さようなら』


さよならぱて


部屋がよごれなくなったわ ぱて あなたが死んでから
あなたのぬけ毛だけはいまも床に光ってる
つまむと 泣いちゃった
こんなにはやく死んじゃうなんて でも苦しんでたから
よかったのかもしれない

どうして生きものは死ぬのでしょうか
死ぬから生きものなのでしょうか

さっき ついさっきまで息をしてた
ねむったのかと思った でももう
息をしない よびかけてももう
こたえてくれない この子
どこにいっちゃったのかなあ
こんなへんな犬
二度とあえない

悲しいあなたの声をきいてもぼくは
なにもできずにぐでんぐでんに酔っぱらい
吠えながら泣くばかりの
ひとになりました

こどものころ うさぎをもらっていっしょに暮らした
げんげばたけのあかとみどりに染まって あそんだ
ぴょんぴょん もぐもぐ かわいかった
ある朝 いなくなってた
のら犬にやぶられた小屋に
白い毛が散っていた
あの白 忘れられない
血に見えた

どうして生きものは殺すのでしょうか
殺すから生きものなのでしょうか
殺されるから生きものなのでしょうか

いまもふるさとの竹やぶからささやきがきこえる
ころが泣いてる
病気にかかり苦しんでるころを
ぼくは助けてあげなかった
あわがあふれる口に薬をおしこむおかあさん
いやがりうめくころの
のみくだすちからも失いかけたのどがかすかにふくらんだ
苦しむ目をしたころに ぼくはさわれなかった あわが
白いあわが こわかった
あの白 忘れられない

ころ 悲しむあなたの目をみてもぼくは
あなたが竹やぶに埋められた日
いつもどおり ごはんを食べることしかできない
こどもでありました

あたし思い出した
ベランダにりんご置いたら 小鳥がきたの
ぱて不思議そうに眺めてる
みけんにしわがよってるよぱて
りんご食べたいの?
あのりんごは小鳥のりんご あっ
ぱてはするりとベランダにぬけだしたの
つばが光った
ぱての舌に小鳥の血 あっ
食べてしまった…

小鳥はけがをしてた ぱては
傷口を ただれたうみを
なめていたの
つばの光 白いあわがかがやいて
うつくしかった
ぱてはもう弱っていたから
小鳥をりんごとまちがえたのかもしれないけれど

どうしていい生きものははやく死ぬのでしょうか
はやく死ぬからいい生きものなのでしょうか

今朝 目覚めると窓いっぱいにやわらかな白がひろがっています
窓をあけるとまびしい雪がちらついています
あなたはいまどうしていますか
ぱてが死んでからはじめての雪
あとなんど雪をみられるでしょう さようなら
いい犬ははやく死ぬから
あなたきっと長生きするわ と
あなたはいってくれたっけ

白い雪を眺めながらぼくは
わかれた生きものたち あなたの声を
忘れることができない
ひとになりました

雪のふる夜 ぱてと公園さんぽしたの
しりもちついたあたしのまねして
ぱてもころんだ
木もぱても ゆきだるま
雪のふるベランダにいま
小鳥はこない
ぱてはいない でもぱて
あたしがあなたの毛 やわらかなあたたかみを
いまも忘れられないように
あなたも雪の肌ざわりをこころに抱いて
死んでいったから
きっと
雪になって舞っているのね
あたしも雪になってあなたと
小鳥たちと舞ってゆくの ね ぱて
あなたが好きだから
さよならはいえない



「 さよならぱて 」( 了 )

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