高畑耕治詩集『さようなら』


さようなら


冬は寒くて嫌いです 恥ずかしいことですが
死にたいとばかり思います
嘘みたいに暑かった夏はとおく
透きとおる青空 浮かびあがる雲はなぜか
わかれたひとの姿をします


  行きましょう
    逝きましょう

あわく溶けて見えなくなるひと もう会えないひとへ

  行かないで
    逝かないで

愛することも悲しむこともできなくなったわたしはいま
なんにも見えないもやのなか 見あげれば
星のない夜空から ふりそそぐ光 やわらかな雪

  さようなら

    さようなら

      さようなら

        さようなら

雪は痛みにみちていて
( 災害公害戦争競争争奪殺戮に疲れよごれたこのこころにも )
痛みにみちてあまりにしずかに
( なんともやりきれない呻きやりばのない嘆きにも )
あまりにしずかに舞いおりてきます
( 掻き消された叫び叩き壊され踏み躙られた願いにも )
ちいさな星のかたちのてのひらを差し伸べ
輝きながらふりしきります
枯枝はもう雪だるま
草花はほら赤ん坊のにぎりこぶし
しろい祈り
わたぼうしがいちめんに咲く裾野は
なつかしいお母さんのひざまくら
痛みに耐えた愛(かな)しい乳房に喜びの
うぶごえがきこえてきます
いのちのうすあかり 雪あかりにやすらかな
こもりうたがきこえてきます

  逝きましょう

    さようなら

      生きましょう

        さようなら

雪だるまになりわたしも白い息を吐いていました
雪が好きです さようならを
生きてゆきたいと思います



「 さようなら 」( 了 )

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