高畑耕治の詩


この星の楽譜を



 プレリュード



伝えたいのに楽器
うまくひけない

あなたは
かなしみ
しずかな


わたしさえ
きれいに
あらってくださるのに

やすらかに


しずめてくださるのに

伝えたいのに星の楽譜
うまくひけない




 土と水と、空



悪ばかりがのさばる息苦しい世にも
救いの物語はあり
水球のように
浄化され昇華された
世界宇宙は
こころのうちそとに手のひらのように生まれ
浮かび 花咲き 伝わる

わたしはこの地に根差した
紫色と茶色のよりあわされた
ひともとの茎
ねじれ
青空あおぎあえぐ

苦と悲と悪の土底深くのび
はりめぐらした細かな数しれない根を
ひきぬきちぎる痛みには耐えられそうになくて

みじめにもじめじめいじいじ
美しい慈しみの
宙の高み
恋い
慕い

裂けた唇の花から
かたちも音も意味も重みもなんにもない
透明水膜宇宙
しゃぼんだま
水風船
ふくらましうちあげては
こわして

 ( おやおや
  どこへのびてゆけるつもりですか?

  どの空へとどくものでも
  とんでゆけるものでも
  ありませんでしょうに )




 ピエロ花・スケルツォ3



あんまりです

道化の草でも
かまいませんから

心音のかなしみの
こわれもの
あまりもの

せめてもの
ピアノ演奏
ピエロ曲
道化の
童話

花空の
あなたへ
ささげます

 ( どうか
  とどきますように )

もっとずっと
音楽になれたらよいのに

みえない羽に
そっと
花に

なれたらよいのに




 昇、消音



そうだあのころ子どものころ
横笛吹きになりたかった

恋にくすぐられあの子
恋しはじめたあのころ
横笛の音になりたかった

あの子も笛もゆめも
なくしたけれど

フルートの音に
いまもなりたい

おどりまわるまま
湖の透明なゆらめきに溶け生まれ変わり
はばたき舞いのぼる
白鳥ののどのふるえのようにも
ゆめうつつのまま

メヌエットの
旋律にとけ

フルートのあの音色に
せんりつにきえて
たかく
とおく

ゆきたい






※読み 土底: つちそこ。宙:そら。
透明水膜宇宙: とうめいすいまくうちゅう。
水風船: みずふうせん。心音: しんおん。
花空: はなぞら。横笛の音: ね。
フルートの音: ね。

※参照 プレリュード。スケルツォ。: ショパンのピアノ曲



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