高畑耕治の詩


カ、美い鳥
  ― ピアノとフルートのメヌエット




 銀の滴のまわりに


耳を澄ませ
ながれてゆけばいつか
洗われることもありえるような

しらべにとけいりたい
とだけおもえて

どれほど激しく叩いても
ピアノの弦
減衰してゆく
星くず
悲しく砕け
愛しくつらなり
発光する

吹きこまれる風に
フルートふるえ
あこがれてゆくはるか
あの空のむこう
聖水の流れ苦しく
息をつぎ美しく
息絶えるまで

 ぴかぴかぴあの
 ふるふるふるうと

 ♪ 銀の滴降る降るまわりに

星の滴に
 ぴかぴかぴあの

青空と風と水の滴に
 ふるふるふるうと

 ♪ ピカ チカッポ !
 ♪ カムイ チカッポ !

小鳥とひとの涙の滴に
 ぴかぴかふる ふるる




 ピアノ



かけあがりかけくだれ
無限音階の透明鍵盤
ときめきの連弾
きらめきのきわみの自由の
静けさまで

無限調性グラデーション
音色めくるめく時空の果て
色彩の彼方へ

白鍵と黒鍵にタッチする指の
爪のその先へ延びてゆく弦の
平行線 三角錐 交錯線
五線譜のシルエットの水平線
思い浮かべ
愛おしみ

フェルトの綿毛にくるまれふんわり
ふれたたくハンマーの指先で
虹色の音色のプリズムの
みなもとさがしもとめ
すくいあげつまびく
ハープに
憧れ夢み
目覚めて

強く弱く激しく優しく
脈動のしぶき
旋律の滴に
ふるえる虹を
立ちのぼらせたいとだけねがい
仰ぎみて

 ピカぴあのピュア

泉あふれ響き流れ
ゆきたい
とおく
はるかへ

 ピアノぴ
 ぴあのぴゅあ




 フルート



ふれるほどまぢかに
ふれえない笛に
くちびる
くちづけず

しめつけられるまま胸の
苦しみのきわみの
息吹きこみ

くりかえしふかく
息吸いこみ
愛しみのきわみの
息また吹きこめば

胸いたむばかりの
せつない
ねがいでさえいつか
音色澄みきり

 ピカふるる

さえずりに
美い鳥に
生まれ変わり

 ピカるる

舞いさって
ゆけるでしょうか

音符のことりたち
みえないなきがらの
このたましいさえ
なかまにいれて
ともに
とおく

 ふるる
  り
 

飛んでいって
くださるでしょうか




 メヌエット



ピアノの滴
横笛の音の
子どもたちもふるえる

風と光の花
咲きささめき
舞いのぼり

ことばの生まれるまえの
透きとおる
ことばで

生まれあふれでた
あの日の泉
浮かび波間であおぎみた
青空
海の瑠璃
交わり溶け
いつまでも
いつまでも

輪唱する

生まれるまえから
生まれ消えても

風と水と光の
透明旋律
純音の
メヌエット

奏でつづける

 ピ
  る
 り






※読み

美い鳥: いいとり。
  知里幸恵『アイヌ神謡集』の表現。
愛しく: かなしく。
音色: ねいろ。三角錐: さんかくすい。
横笛の音: ね。純音: じゅんおん。瑠璃: るり。

※引用

知里幸恵( ちりゆきえ )編著『 アイヌ神謡集 』
 「 銀の滴降る降るまわりに 」から。

 Pirka chikappo ! Kamui chikappo !
 ピカ チカッポ ! カムイ チカッポ !

 美い鳥 ! 神様の鳥 !

 ピカ: 美(ィ)い。美しい。善い。

 「知里幸恵ノート」
  北海道立図書館北方資料デジタルライブラリー
  画像番号7。

知里幸恵ノート_P7_北海道立図書館_北方資料デジタルライブラリー



「 ピカ、美(い)い鳥 」( 了 )

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