高畑耕治の詩


猫座に生まれる日



夜道とおくに猫をみた
暗がりかわいい黒猫かなと思った

月も星もないよ
良い闇夜だよ

翌日昼間におまえ
さびしい猫をみた
黒でも三毛でも白でもなく
毛はまだらに抜け落ちうす汚れた
野良猫をみた

まるでわたしみたいで目を背けた

疲れた猫をみた
毛が生え変わる季節だからなら
よいのだけれど
コロナでも皮膚病でも不治の病でもないなら
よいのだけれど
薬もなんにもなく
疲れつらそうな
野良おまえから
目を背けた

捨てられたんだねきっとおまえ
人からわたしみたいに

すれちがいざまおまえの
つぶらな目はどんより無関心
笑えない
笑う気になんてなれるかって
疲れきってうつうつ孤独な
わたしみたい

食べ物でもない
食べ物くれもしない
あんたなんかどうでもよいと
甘え鳴きもせず
黙りこみ無愛想な
おまえ
生気のない腹ぺこの
不機嫌な
おまえ

おまえの鳴き声を聞きたい
おまえのおなかをなでさすりたい
なんて思えない

おまえもう
鳴かないのか
鳴きあきたのか
鳴けないのか

愛らしさもなく
野良猫ひとり
愛のないこの闇世

生きぬく猫の気持ちがあんたなんかにわかるか
二度ともうあいもしないあんたなんかに

背中で
にらんでいたおまえ

別れたあの日もいまも誰も
友だちのいないわたしとおまえは
友だち
だからその猫の目を
閉じられるその日まではなにものにも
負けてくれるな

離れ離れに荒んだ路地で
眠らず夜通し鳴いていよう
野良猫らしく
声なんてださず
無惨なこんな
闇世界のみじめさを
かみちぎる
瞳まっ黒な
月あかり
やわらかにやさしくやどして

星の降らない雨空
ゆくえしらずの天の川 神々のわがままな
星座伝説も導きもなんにもみえないこんな
闇夜にこそ
目を閉じれば

猫背のまま
すくいあげられたおまえの
星座
猫座から無言の
かなしみが聞こえる





「 猫座に生まれる日 」( 了 )

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