高畑耕治の詩


白ゆりこねこの祈りうた



せみしぐれとまるで奏であうように
草のまから聞こえてきたのは
いなくなったのらねここねこの
鳴き声のようでした
そばに駆け寄るとこねこは
いませんでした

ゆれているのは
白ゆりの花

こねこのように透きとおる
みゃおにゃおの花びら
ひらいてくれたのです
しずかに
無言の
ゆりことばで

「 祈ることしかできない
 無力に
 立ちつくしても
 しおれることはないわ
 祈りの花咲かせることができるあなたが
 こねこゆりのわたしは
 好き

 祈らずにいられない
 ひとの花
 ひとらしく生きようとしてる
 苦しい悲しい痛いあなたの
 こころにだけ香る
 花だもの 」

「 ゆりこねこぼくは
 祈りながら殺せと命じられる
 宗教なんて信じられない 」

「 悲しいひと
 おひとよしのあなたは
 だまされてしまったのね

 祈りの種子に
 愛の願いの精に
 ゆりこねこの花
 わたしは
 咲けたけれど

 あなたを蔑み傷つけたのは
 祈りも愛も願いもない偽りの
 狂信原子核
 放射能の雨

 ほら夜空にはあんなに
 愛しい流星群
 みゃおにゃお鳴いてる
 星空に宗派の垣根なんて
 ないよって
 こねこのように
 白ゆりのように
 あちらにもこちらにも
 祈り星

 ひとの花の
 香り
 祈りと愛と願いがあなたに
 宿りふりそそぎますように 」

「 ゆりこねこぼくはもうとても
 疲れたんだ干からび枯れて
 おまえの土に眠りたい 」

「 疲れたなら眠りなさい
 わたしのそばで

 しずかに無言の
 花びらで
 祈ることしかできない
 愛することしかできない
 願うことしかできない
 星の花
 こころの花
 こねこゆりになりなさい

 咲き枯れて散りなさい
 みゃおにゃお
 泣きながらわたしと
 咲きましょう 」

きづくとお月さまのひかりのもと
ぼくも土にたたずむ
白ゆりでした

「 のらねここねこである日にも
 日暮しかなかなつくつくぼうし
 夏の終わりの傾くセピア色のひかりに
 なつかしく溶けてゆく日にも
 青空のむこう
 流星の花びら散らす日にも
 銀河のかたすみ空爆におびえ
 ひざを抱えうずくまる日にも

 祈り愛し願い
 ゆりこねこのわたしと
 お月さまみあげ
 澄んだひかりに

 ゆき色の花のうた浮かべ
 鳴きましょう
 咲き泣き生きて
 逝きましょう 」

木立のせみの
田んぼのかえるの
草のまのすずむしこおろぎの
うた
美しく舞いのぼれば
星しぐれ

お月さまの
ひかりにほら
こねこ座も溶け
なんてやさしい
祈り

旋律のしずくに
花びらくちびるぬらし
ふたりしずかにいつまでも
いちめんのゆりこねこたちと
みゃおにゃお

「 この地上に
 なんの罪もないシリアの
 子どもの頭上に
 こねこもこいぬもことりも花も木もひとも
 けんめいに愛しあい生きている地に
 傲慢で身勝手な集団の爆弾など
 二度ともう飛び交いませんように

 うた声とさえずりの音楽ばかりが
 星のまのゆりこねことなり
 祈りと愛と願いを
 青空から宇宙時空にまで
 愛しく
 描きつづけますように 」




*ふりがな 愛しい: かなしい。逝き: ゆき。愛しく: かなしく。



「 白ゆりこねこの祈りうた 」( 了 )

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