高畑耕治詩集『愛(かな)


遠くへ

れっかぁ車にひっぱられ
旅をした
焦げ臭いなと思ったら
がたがた震え揺れだして
車は急に止まってしまった
擦り切れたクラッチ 噛み合わない歯車
叩いても揺すってももう
動かない この
ぽんこつぐるま!
( ここまで運んでやったのは誰? )

歩きだそうもう一度
裸足で この足で

遠くへゆくんだ
マラソン選手が二時間でゆくところを
何時間もかけ
自動車に追い越され
高速道路を歩いてゆくんだ
インターをゆきすぎ
最終電車のがたごと渡る鉄橋下の
河原の道をてくてく
歩いてゆくんだ
川の生まれる山なかのみなもとへ
さかのぼる魚のように
川が帰ってゆく河口へ
港のかがり火にみちびかれて
( どっちにゆこう? )迷いながら
歩いてゆくんだ


猿だった昔に
手だか足だかわからないほど発達しながら
退化した指で今
土を一歩一歩つかみとり
つぶした血まめに泣きぬれ
四つん這いになり
歩いてゆくんだ
ふらんだあすのパトラッシュのように
三千里を渡ったマルコのように
風のかおりをたよりに
太陽のいろあいに目を染め
山の頂きにひかる雪を
波のしるべにする漁師のように
星のしらべと草花のねいきを耳にすいとり
やすみながら ゆっくりどこかへ
歩いて

「 自力走行はできませんよ 」
緊急電話できてくれたおじさんの
れっかぁ車にひっぱられていった
インターわきの 事故車のたまり場
おんぼろぐるまのかわりに
置き去りにしたこころの


遠くへ



「遠くへ」(了)

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