高畑耕治詩集『海にゆれる』


かたつむり

あかちゃんのおみみはかたつむり
ひとり童謡をくちずさむおばあちゃん
こころのみずたまりにうつるみみはいつまでもとしをとらない

いもうと
みみかざりをするな
あなたのおさないみみたぶをかむとやわらかなあじさいがひろがり
くろい髪にひかるうなじのしろさにすいつけられてはう舌は
したたる梅雨のしずくのかたつむり
かざりをしないとわたしは流れだすもの
むきだしにさらされるのは不安だもの
かざりをわすれたあなたのおさないものを
乾いた風からまもりたい
うそをおつき
なめくじのようなおとこばかりのこの世では
ピアスばかりがわたしをまもってくれる

愛しあう声はいつのまにか
ガラスをひっかく嬌声にかわり
からがくだかれたかたつむり しらずしらず
しおにとかされてゆくなめくじ
いかのしおからを思いだすおとこはもうだめか
ごめん ひとのしおからにしかなれない

きよらかな旅人でありたい
みずたまりに浮かぶしろい雲のうえをのんびりはってゆく
かたつむりでありたいと
酒にとろけながらなめくじは窓ガラスをはいのぼってゆき
じっと動かぬあまがえるのよこを通りすぎようとしたとき
ひからびながらも熱いガラスにひっつくあまがえるさん
何思う?
なんにも
どこへ行くの? たんぼにかえるの?
どこにも
ガラスのむこうには何があるの?
ひとがいる
え?
あじさいが咲かずにかれたとさっきから
ちっちゃなおんなの子が泣いているから
おれはしろいおなかの花を咲かせてあげたい
咲くまでこうしてる
なんておろかな・・・
さようならぼくもあの子の
なみだにとけて笑わせてあげたい でもきみの
みみかざりでもみずたまりでもない花をかざる
かたつむりになれる日までここにいて
日干しになろう



「 かたつむり 」( 了 )

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