高畑耕治の詩


三日月の夜、こねこに



 一.あのこ


こねこごめんごはんがない
きみを抱きあげて帰る
あたたかな部屋
ノラねこのぼくにはない

冬夜空
かぼそい背をまるめ
病床にもたれる
三日月少女

こねこあの
おんなのこ
やまい治ればいいのに
たちあがり
歩いて
おまえを抱きあげ
ほおずりできればいいのに
孤独のさむさから
おきあがるやさしさはなぜか
あたたかいから

こねこきみの
愛しいこえに
たちどまり
ふりかえり
あのこはくるよ
きみを抱きあげに
かならずくるよ
やわらかなひかりの
微笑みを
手のひらを
きみにさしのべ

こねこだから
さむいさむいと
おなかがすいたよと
星夜空におなき
月あかりにおなき



 二.人魚のうた


こねこごらん
三日月少女
みまもってくれてる

病んでいるのは夜空の
病床のあのこじゃなく
この世界のほう

ね こねこ
あのこほんとは
三日月人魚

傲慢な獣
ひとに
穢された星の
傷ぐちいやし
痛みさえきっと
やわらげてくれる

ほら
あんなにやさしい
うたごえ
こねこきみの
かぼそくやわらかな
なきごえと
愛しく抱擁しあい

夜空の海からきみに
うたってる

「 ゆきましょう
 乱立する再稼働原発のもうない
 悲しい仮設住宅のもういらない
 ふるさとの
 海辺へ

 旅してゆきましょう
 軍用ヘリも戦闘機もとびかわない
 小鳥と雲とお星さまの
 さえずりとささやきひそやかな
 大空のもと

 泳いでゆきましょう
 ジュゴンと海ガメの
 イルカとクジラの
 おさかなとカニと貝と
 ワカメとヒトデの
 呼吸する鼓動する大切な
 愛する海へ
 軍事基地のない
 あおく美しいありのままの
 海へ

 わたしとうたい
 ゆきましょう

 うたは未来
 まだここにないこれからの
 世界の
 潮騒

 滴のおんぷ
 あびながら
 波まのおんがく
 回遊し
 星空のひかりを
 サケのようになつかしく
 さかのぼり

 うたいながらなきながら
 こねこ
 わたしと
 ゆきましょう 」



 三.瞳のゆきあかり


こねこきみの
愛しい月いろの
なきごえ抱いて
旅にでるんだ
まだぼくもきみとなら
きまぐれになら
歩ける

こねこきみの
二つの目にうかぶ
三日月
なんてきれい
ゆきあかりにゆれ
うつくしい

満ちふくらんでゆく
かげりしずんでゆく
きみの瞳の
お月さまがすき

嘆いてもこんなさむさもう防げないなら
こねこぼくと
凍えながら
ゆきの道ゆっくり
探しにゆこうよ

月あかりに
焦がれなきぬれ
ゆけるところまで
ゆこうよ
生きる糧を
探し求めに
ゆきまみれになりゆこうよ


* ルビ 愛しい: かなしい



「 三日月の夜、こねこに 」( 了 )

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