高畑耕治の詩


うた。満ちゆく月の、潮騒の。反戦の。


(4) 願いごと。レモンお月さまに

     - 「うた。木の葉の、幻の」



静けさばかり
この星をつつみ
宇宙空間に満ちていました

惑星は衛星とふたり
朝だか夜だかどこだかわからず
抱きあいながらいくどか
まわっていたのでしょう

わたしも疲れ
めぐる朝と夜と季節を
眠りつづけていたようです

いつのまにやら夏は逝き

みあげれば
木の葉たち
もういろづいて彩りあざやか
虹いろにゆれ
風かすかに
かすれる息づかい
ひそやかな音いろで
くちずさみ
うたっているのです



 『  うた。木の葉の、幻の


  秋空あわいあおに
  うっすらまざり溶けゆく
  白い雲の
  あのりんかくは
  幻

  秋いろ染みて沈んでゆく夕陽の
  あかあかと燃え染まる山脈の果て
  あの地平線の遥けさは
  幻

  オレンジふくらみとろけ波に沁みゆく
  あの水平線のゆらめきは
  幻

  夕陽はいつも朝陽だよと
  宇宙の地平に屁理屈
  並べればなおさら
  果てしれず虚しく
  惑うばかりのふらふらの
  惑星のふらつきは
  幻

  儚い木の葉の悲しみの
  夢のような
  うたなんて
  幻

  生きましょう 』



お月さまもあるのだかないのだか
わからぬほど空のあおの波間に
溺れていたのですけれど

草の間から鈴の音
秋の虫の音
夕闇に沁み
萩も薄も
宇宙いろに
染めあげられてゆくほどに

地下の闇ふかくからふいに
地上にわきあがる
泉の
ひかりのように
悲しみと虚しさと儚さ
地上の闇から
すくいあげられ
夜空にあふれだしたのでしょうか

中空に
くっきり
レモンお月さま
かがやき

レモンのかたち
涙の滴のかたち
すっぱい
悲しみいろでした

爆撃ミサイルにおびえる子どもの
甲状腺がん検査を恐れる子どもの
こころの瞳の
悲しみいろでした

レモンお月さまあなたはいまにも
はり裂けそうなほど
はりつめ
とてもきれいです

どうしてあなたの
微笑みまぶしく
虫の音の涼やかな
調べ美しく
ふりしきるのでしょう

わたしはあなたの
ひかりあびて
たたずむばかりです
怒り
悲しく
虫の音に溶けたいとひとり
願うばかりです

レモンお月さまどうか
あなたからしたたりおちる
透きとおる滴が
みあげる子どもの
つぶらな瞳の
涙じゃなく
微笑みとなりますように

疲れおびえ沈みこんだ眠りの
恐怖の暗闇に
夢のあかり
まあるく
にっこり
浮かべてくださいますように

レモンお月さま
あなたの微笑みばかりは
子どもたちの
悲しみと痛みを
幻にいま
溶かしてくださいますように

美しいひかりの
音楽
あふれささめく

ふりそそぐすっぱい
滴で

なくしてしまった
いのちの
祈り
愛の
喜び
思いださせてくださいますように

レモンお月さま




* ルビ 山脈: やまなみ。中空:なかぞら。



「 うた。満ちゆく月の、潮騒の。反戦の。(4)願いごと。レモンお月さまに 」( 了 )

TOPページへ

銀河、ふりしきる
目次へ

サイトマップへ

© 2010 Kouji Takabatake All rights reserved.
inserted by FC2 system