高畑耕治の詩


ウインク、三日月と夕陽に




気づいたのは大好きな
三日月の夜
お月さまなんだかゆがみかすんで
きれいに見えず
悲しかった

眼球の底の静脈やぶれ
沁み出した血まばらに
にじみ散らばる写真
脳出血と同じこと
いちばん弱い眼球の部位
自壊したのだという

あんなにきれいな
夕陽オレンジの今日
球体内部に散らばる血の影は
太陽の美しいまるみ
ぽつぽつかじり隠し
かすませてくれる

感動できないなんて悲しい

まるで傲慢狂奔為政者の
愚鈍無能に蝕まれかけた
平和愛するまるいこころ
にこやかな瞳
柔和な微笑み

もういちど
美しいと
こころ穏やかに
ふるえたい

三日月を
あかい夕陽を
大好きなあなたと並んで
みつめ
瞳で
無言で
美しいねと
伝えあいたい
ただそのために

怒りで治癒させよう
痛くても

時とひかり
透きとおる水晶体に
射し込み
血の洩れ出ない
まるみのおくふかく
かがやき
流れてゆけるように

宇宙に瞬く
眼球
地球の網膜に
血と放射能に染め尽くされた
戦場廃墟汚染地帯の悪夢ばかりが
映し出されつづけないように

バナナ三日月
オレンジ夕陽
美しいひかりが
虹彩くぐり
海の瞳いちめんに
照り映え
宿りゆらめき
いつまでも
うたいつづけてくれるように



  追伸


右目が傷みました。
左目はだいじょうぶでした。だから、
ウインクすれば、まだいまも、
世界は美しいです。





「 ウインク、三日月と夕陽に 」( 了 )

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