高畑耕治『死と生の交わり』


祈り

(4)


叫びちらすおまえに
彼女は 何もいわない
ただ 静かに 祈っている

おまえが おまえのために叫びちらすのとちがい
彼女は 何もいわない
おまえが まわりにめくばりするのとちがい
彼女は 何もいわない

悲しみを
苦しみを
ほんとうに感じているのか
叫びちらしていられるおまえは

自分の 悲しみ 苦しみを
感じることのできないおまえに
祈ることのできないおまえに
どうして
死んでしまったひとの
死んでいくひとの
悲しみ
苦しみが
感じられるというのだ

黙っていればいい

おまえ自身のために
祈らずにはいられなくなったら
もう 叫びちらすこともしないだろう

涙は
祈りは
ひとりでにあふれでるだろう
おまえ自身のうちから
彼女と
死んでしまったひとと
死んでいくひとと
沈黙のうちにだけ響きあう
叫びとなって



「 祈り (4) 」( 了 )

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