高畑耕治『死と生の交わり』


赦す


生きのびることが わたしを赦すことでしかないのなら
わたしは 生きのびるわたしを赦さない
わたしを殺すことが わたしを赦すことでしかないのなら
わたしは わたしを殺すことを赦さない

わたしに わたしを赦さないことなどできるものか
わたしを赦せないから生きているというけれど
 生きのびるわたしを赦しているだけではないのか
 わたしはわたしを赦すしかないのか
わたしに <殺されないこと>などあるものか
 わたしがわたしを殺す 殺されるまえに
 それさえ殺されることにしかすぎないのか
 殺されるしかないのか
わたしは わたしを殺せないのか
今 「 わたしは まだ 殺さない 」というけれど
 「 わたしには 殺せない 」とききとれないか
今 ここにいようとしつづけることの苦しみより
 わたしを殺すことの痛み
 肉体の苦痛
 心の恐怖が あまりに大きいから
 わたしはわたしを 殺せない
 それがほんとうなのか
わたしは 殺されるそのときをまつしかないのか
 そのときは わたしがえらぶのではなく
 おそいかかってくるものなのか
そのときを わたしがえらぶ
 えらばされつつ
 わたしがえらんだのだと言いきかせ



「 赦す 」( 了 )

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