白壁の土蔵がつづく
路地の奥には
忘れられた光が佇んでいる
目には見えないひとりの幼児が
その光のなかから駆け寄って来る
澄んだ笑い声が
空へと昇ってゆく
日溜まりには
失われた時と
逝ったひとたちのおもいが
漂っている
忘れてはいけないからではなく
忘れられないから
私たちは 今も
逝ったひとたちと共にいる
死んだ人の方が
近いのは なぜ
そう思いながら
生きている人の心を探す
夢の切れ端が
こんなにも重い
記憶の海に沈んでいる
流れていった虹
水に溶けた絵
永遠に喪われた時が
私たちを浸している
川面の上に そっと置いた
小さな舟
流れゆく
ひとつの いのち
灯を消した後にも
闇のなかに
仄かに見える
光の暈
湖に投げられた石が
沈んだ後にも
広がり続ける波紋
そんな風に
触れた手の感触が
消えずに残っている
逝ったひとの吐息が
今も ふと甦る
テーブルに木漏れ日が映っている
揺らぎ止まぬ心のように
私は どこから来て
どこへゆくのか
さみしさと背中合わせのその問いは
いつも消えることなく光っている
手の切れそうな葉先の上で
こんな明るい陽射しの日には
草絮が空高く飛んでゆく
小さな光となって
どこに辿り着くかもわからないまま
もし人間ならば 多分
胸をドキドキさせて
瞳を輝かせて
期待でいっぱいになって
望むことは大切なことだ
望み続けている限り
いつか思いのままに
飛んでゆくことができる
夢みた地に辿り着くことができる
そんな子供の夢を
そのまま信じてもいいような気になって来る
白い ふわふわの 生きもののような
ひかりのなかに消えてゆく
綿毛をいつまでも見つめていると