高畑耕治の詩



* ルビ 夜想曲 : ノクターン。潮騒 : しおさい。
( 四連 )愛しくいとおしく : いとしくいとおしく。
( これ以外はすべて )愛しく : かなしく、愛しい : かなしい、愛しみ : かなしみ。





夜想曲、星と海の




あおい空 雲ひとつないあおい
朝の空に溶けそうな
しろい月
美しいと感じられたこと
労働の一日に埋もれ
疲れきったわたしの
生きたあかしでした

淡い月 愛するひと想い

悲しい夜
ひとり
夜空みあげて
まっくら
こころの星を
あなただけを
愛しくみつめます

旅がしたい
愛するひと想いひとり旅がしたい
鎖につながれできない旅がしたい
閉ざされた扉重く
痛く苦しく悲しく
あなた
愛しくいとおしく
旅せずにいられない

こころの宇宙には
悲しみの海の
みえない遥かな水平線
疲れにふっと落ち込んだとたん
いちめんの波立ち
あおい海ゆらめくまま
悲しみあふれて
潮騒くちずさみ

 悲しい
  悲しい
   悲しい

涙ひと滴の潮水
ゆらぐまるみ
あおい水玉
海の星
地球の子宮に
くるまれてわたし
胎児でした
ひざを抱え目をとじ
耳を澄ませると
母の鼓動なつかしく
聞こえるのです

ほら海の子ども
お魚たちも輪を描き
わたしの耳もとで
話しかけてくれます

 逃げよう
 ここにまで
 放射能汚染水
 どんどんひろがってくるよ
 離れよう遠くへ
 いのちの水穢す
 母のいのち壊す
 汚い人間
 見棄てよう

こわくて泣いていました
愚かしく醜く有害な生きもの
ひとであること
酷く恥ずかしく悔やまれて
目からあふれでる潮水
汚染水すこしでも
薄めてくれますように
海が生んでくれたのだから
海いっぱいに泣きますから
宇宙もほかの生きものもどうか
赦してくれますように
願いすがる夜でした

 悲しくて
  悲しすぎて

目を開けているのかいないのか
もうわからなくなりました
お魚たちもイルカもクジラも
海がめさんも遠くへ
遥かな沖へ去ってゆきました
タコもイカもヒトデも
サンゴも貝も海草もみんな
いなくなりました
生きもののいない
放射能汚染水の波間をわたし
どれほどの年月
漂いさまよったでしょう

 こんなこころにも
 ちいさな花
 愛するあなたの
 波の花どうか
 咲いてくれますように

音もない色もない動きもない
闇に凍え
泣きながら
どれほど祈ったことでしょう

 いのちの花
 愛しみの花
 海いちめんに
 もういちど
 咲いてくれますように

変わることなくまっくらな
繰り返された
嘆きの夜に

ふいに
瞬きだしたのです
星の瞳
闇に

夜空の
星の囁き
海に
降りそそぎ

 愛しい
  愛しい
   愛しい

光の桜
咲き初め
瞬く間に
咲き満ちて
散りはじめ

 愛しくて
  愛しすぎて

光の花びら
光のゆきんこ
こころいちめん
海いちめんに
降りしきり


 か な し い
  す き す き
 か な し い
  す き す き
 か な し み
    す て き

愛しい水滴
この星の
海のあおに
波の花と
咲き
涙の花と
散り
海の精に
こころゆだね

あなたを
好きって

 好き
  好き
   好き

うたいゆれるのです

 す き
  す き
   す き

深い眠りの海
永遠の海に
ねおち
するまで

  好
 き
 好
 き
  好
   き
    好
    き
    好
   き
  好
  き
   好
    き
      す  き   す



  こだま


沈めたなら
待っています
あなたを

夜想曲
星と海の
愛しみにゆれ





「 夜想曲、星と海の 」( 了 )

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