高畑耕治のちいさなお話


葉っぱのハート、すみれに。




   五.わかれ。境界線の向こうへ。


「 サツマイモさん、話してくれて、ありがとう。わたし、春になったら、すみれ咲く野原にあなたを戻してあげるね。どうか、葉っぱのハートをそよがせて、風に愛しみ、伝えてね 」
「 ありがとう、やさしいひと。けれど、そろそろ、おわかれの時のようです。ぼくは季節外れのお芋でした。ほんとはもっと早く食べられて、あなたになれたらよかった。ぼくもうしわくちゃ。食べられないね。あなたになれず、ごめんね 」
「 ごめんなさい。わたしこそ、あなたを閉じ込め、枯らせてしまった。ほんとうはあなたを、あなたのハートをこの部屋で見ていたかったの、感じていたかったの 」
「 だいじょうぶだよ。やさしいひと。すみれのハートがあなたのハートに生きはじめてくれたから、あなたと咲いていてくれるから。ぼくはいまとても幸せなんだ。ありがとう。
 すみれのところにやっとゆけるいま、すこしも悲しくないんだ。ぼくを焼き芋にしてください。燃やし尽してくださいね。
 すみれとおなじ青空になるんだ。青空になったら海にもなれる気がする。そうだ、なれるよ、きっと。
 宇宙の星にも。彼女と結ばれてふたつ星、ハートの星座が夜空に瞬いたら、ぼくたちを思い出して。
 さようなら 」





* ルビ 愛しみ: かなしみ



「 葉っぱのハート、すみれに。五.わかれ。境界線の向こうへ。 」( 了 )

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銀河、ふりしきる
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