高畑耕治の詩


十四歳。いのち、巣立ち。



  山鳩、巣立ちのうた
   ( ふるさと、福島の空へ )


ぐるっくるう ぼうぼお
ぐるっくるふ ぼうほふ

あの鳴き声 聞いて育った
山鳩だって 知らずにずっと
カエルの声って 思っていたの

わたしの部屋に 母
飛び込んできた 悲鳴あげ
指さした先 ベランダに
山鳩のひな
たどたどしくよちよち
羽毛まばら
なんてかわいい ひよわな
二羽のひな

母親鳩 巣づくりに
わたしの部屋のすぐそば
選んでくれたのね
なんて素敵
ひなたち 抱かれ温められて
卵から孵ったんだね
殻やぶったんだね
なんてかわいい かぼそい声
ぴよぴよ

でも父と母 ひどい
臭いと言ったんだ
かわいいひな あなたたちを
人間なんて もっと いちばん
臭いのに 賢しらな原発で
この星 穢しているのに
生きものたち 苦しめてるのに

父は冷たく捨てなさい
けど 無視
母にだけ
「 絶対に駄目だよ
 触らないでよ
 巣立ったあとわたしちゃんと掃除するから 」
約束したの

学校から帰ると ベランダにひな
いなかった
悲しすぎ
生まれたいのちどうして
喜べないんだろう
巣立つ日まで 見守れないんだろう

「 どこにやったの? 」
「 親鳥がきてたわ、大丈夫よ 」
「 どこにやったの? 」
「 一階の玄関横… 」
「 猫に襲われちゃうじゃない! 」
階段駆けおりた
いた!
はだかうすもも肌の ひな二羽
寄り添い ふるえて
生きてた!
よかった ごめんね ゆるして
わたし 守るから
連れ戻したの ベランダに
「 こんど、触ったら、絶対にゆるさない! 」

毎朝 窓すこし開けて
耳を澄ますの
元気だろうか?
カラスに襲われていないだろうか?
と 舞い降りてくる
ぬくもり 母親鳥の
ぐるっくう

瞬間 いっせいに
ぴよぴよぴいぴい
ぴいぴいぴよぴい

素敵なソプラノ
ひな 生きている!

母親鳩 こたえて
ぐるっくう

美しいさえずりあい 懸命な
愛の はあもにい
こんなにこころときめくなんて
わたしも
山鳩なのかもしれない
山鳩だったのかもしれない
いつか
山鳩になれるのかもしれない
そうだいつか 飛んで帰ろう
囲われ歩いて近づけない
ふるさとのまち
福島の海辺に

幼い羽ばたきの音
なんどもなんども 聞こえるよ
だんだん どんどん
上手になっているよ
どうか無事に 巣立てますように

あっ
あおい空
わたし飛んでいたの
お母さん鳩 子鳩たちと一緒に
羽ばたいて
山鳩になって
わたし高所恐怖症だけど
あなたたちとなら こわくないわ
風に乗って わたし
飛んでいるわ
ふるさとの空を

あくる日 学校から帰ると
ベランダ とてもしずか
はあもにい もう
聞こえなかった
巣立てたんだね 子鳩
うれしいな けどとてもさびしいよ
教えてくれたのね あなたたち
飛び立つこと お別れまえに
飛んでくれたのね わたしの
夢を 一緒に

いまでもときどき
わたしには聞こえるよ
お空のいろんなところから

巣立ったあの子たちが
励ましてくれるの
降りそそいでくれるの
美しい
風とひかりの
メロディーにのせて
愛のうた

ぐるっくるう ぼうぼお

おいでよ
飛び立とうよ

ぐるっくるふ ぼうほふ

ふるさとの空へ
福島へ帰ろう


「 十四歳。いのち、巣立ち。・山鳩、巣立ちのうた ( ふるさと、福島の空へ ) 」( 了 )

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