高畑耕治の詩


十四歳。いのち、巣立ち。



  さなぎのうた
   ( 中二の日記帳から。妹が観察にもち帰った、あおむしさんに )


あおむし あおむし あれっ かくれんぼ?
どこにいったの? みえません
ほら ごらん
ましろい さなぎ
ちょこん

さなぎ さなぎ あれっ しんじゃったの?
うごかない なんにもたべず みずのまず
とっても しんぱい
あっ ごらん
ましろい おはね ほら
ちょうちょ

ちょうちょ ちょうちょ ああ
ちょうちょ
いきてたんだね うれしいな
あっ
とんだ



  はぐれアリの誇り
   ( 中二の日記帳から。わたしのお部屋に迷い込んだ、アリさんに )


本読んでると文字が動きだしたの
黒い点点 ゴマ粒のよう
アリさんでした
三階へ、( 三界でしょうか )、
ここ四階まで、( 死海でしょうか )、
階段登ってきたの?
服にくっつき きちゃったの?

紙のうえに誘い乗せて
逃がしてやったよ ベランダに
あっ けど四階
地上へ降りられないかな?
死んじゃうかな?
もいちど探して
見つけたよ
手をのばしたら
あっ
声 アリさんの


  つかまえないで
  ぼくはアリ
  群れからはぐれて
  気づくと 大きな部屋のなか
  馬鹿でかい化け物の手に追われ
  必死に逃げた
  つかまりかけた でも
  もいちどなんとか逃げました
  土へ 巣へ 仲間のところへ
  戻るんだ
  ぼくはアリ 歩きつづけます
  それがぼくたち
  アリの誇り

アリさん わたしもう
おせっかい やめるね
アリさんなら 大丈夫だね
地上まで 土まで どうか
はやく降りられますように
はぐれても はぐれても
歩いて



  十四歳、家出
   ( 手紙。引き出しにしまってた、)


お父さんお母さん
さようなら

ふたりの望む名の知れた大きな
会社に大学に高校に中学に小学校に幼稚園に
受かり入って 自慢し威張るためだけに
見栄はるためだけに
ふたりを喜ばせるためだけに
生きてるんじゃない

さようなら
ありがとう わたし もう歩けるひとりで
歩けなくても 歩きたいんだ
この足で
歩く方向さがしながら 迷いながら

わかってくれる? わからない?
ならごめん いまは
さようなら

お父さんお母さん
積みあげてくれた期待の
お家 もう出るね

わたし歩きだします
わたしの夢へ

引き出しにしまってた
この手紙
机のうえに置いて


「 十四歳。いのち、巣立ち。・さなぎのうた。はぐれアリの誇り。十四歳、家出。 」(了)

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