高畑耕治の詩


死と愛。

  美しい国。憎悪咲き乱れる、


 祖父と祖母を想い、二人に話しかけ、二人を探しながら、ぼくは街をさまよっていた。ひどく憂鬱。胸の底に黒く重い塊を感じて。沈んでしまいそう。道路も建物も人も車も、目に映りはしても、乾いた砂まじりの風のよう、さらさら。
 不意に肩をこづかれ強く押しのけられた。気づくと駅前の商店街通りを練り歩く群れ、示威行進に巻き込まれていた。
 怒号と罵声。日の丸の旗を振り回し、プラカードを掲げ。怒鳴り、罵っている。

 「 在日朝鮮人、ぶち殺せー! 」

 驚愕。不意打ちに、瞬間、心凍りついた。
 真っ昼間の商店街、公道の、この異様な情景。映画の撮影?
 人の住む生活の場で、暮らしを妨げ、害し、恐喝している。こんな場所でこんな時間にこんな酷いことを。公然と。
 やらせ番組? 演出だったら、どんなに救われるか。しらふで、侮蔑し罵倒し脅し、言葉の暴力ふりかざしている群れ。狙いを定め、集団で詰め寄り、傷つけ痛めつけようと。この威嚇は、いじめ、暴力だ。充血する顔で攻撃に酔い痴れる群れ。

 プラカードに書き殴られた言葉、その惨さが眼球を刺す。

 「 在日韓国人、朝鮮人のやりたい放題、誰が許すか! 」

 日本語、日本の文字が歪んで悲鳴をあげている。
 憎しみを煽りたて、人を貶め、蔑視する、どす黒い眼差し。
 美しすぎる、あまりに。
 この憎悪の群れ、美しい国への行進?

 「 良い韓国人も、悪い韓国人も、どちらも殺せ 」

 戦慄。痺れ。
 誇らしげに愚かさ掲げる、麻痺の、恐怖。
 煽りたて、煽りたてられ、興奮に喜悦する顔、顔、顔。
 差別し、恐喝し、攻撃する群れ。
 暴力団、軍隊、獣の、群れ。

 気づいた。兵器の商人、金儲けのために戦争をのぞむ死の商人たちが、この群れのあちらこちらで怒鳴っていた。
 兵器を増産しろ。子どもたち、若者たちを戦場に追いやり。隣国の、朝鮮半島の戦争で稼いだ時代を再現しろ。
 兵器を輸出しろ。原発を輸出しろ。核の種を世界中にばら撒け。金儲けのために。儲けてお国を強くするために。
 歪んだ仕組みでの多数を、民意と読み替え、賛意、総意とすり替え、認められても望まれてもいない悪事まで、独断で進め、押しつける、傲慢な群れの行進、進軍。

 示威行進にもまれ、抜け出せず、怒号と罵声の渦の中で、ぼくは後頭部と眼底に鈍痛をおぼえた。鼓膜の奥に痺れを感じた。殴られたのか? 眩暈が、耳鳴りがする。
 プラカードの歪んだ文字がにじみ、変形し、ぼくには、お国の、赤紙、召集令状の文字が見えた。重なって見えた。お国の号令が聞こえた。頭が痺れ、壊れそう。怒号の渦。
 「 殺せ、戦場にいき、殺せ、殺しあえ、お国のために 」。

 狂喜し、血迷う群れ。憎悪の軍隊。煽動され、群がり、行進し、衝突を、血を求め、叫んでいる。
 憎悪が憎悪を呼んでいる。浴びせ、浴びて、生活を、日常を、憎悪で染めあげようと。耳を覆うぼくの鼓膜に、怒号、罵声が燃えひろがり、
 「 在日日本人、ぶち殺せー! 」
 「 在韓日本人、日本人のやりたい放題、誰が許すか! 」
 「 良い日本人も、悪い日本人も、どちらも殺せ 」
頭が割れそう。痛い。吐き気がする。

 真っ昼間の商店街通り。まるで白昼夢、憎悪咲き乱れている。
 「 兵士になれ、戦場にいけ。この美しい国を守るために。あの国も、あの国も、この国の敵、敵、敵。みんな、みんな、ぶち殺せー! 」
 無差別爆撃の大量殺戮、平然と繰り返した、あの時代を崇め懐古する、軍国の兵士の行進。
 赤紙で、ひとりひとり追い詰め、縛り、殺し、死亡証明書を乱造してばら撒いた、あの時代。ひとりひとりの心を痛めつけ、願いを壊し、祈りを砕いた、あの時代。美しいお国の時代への、憎悪の進軍。
 お国のためなら、金儲けのためなら、手段は選ばない。命令し、強制し、従軍させてやると。高らかに、誇らしげに。
 核兵器で被爆させてやる、原発でも被曝させてやると。逃げ込む核シェルターだけは用意周到に、地下深く潜み命じた大本営をまねて。


 駅前の商店街通り。憎悪の軍団が群れ歩く横を、選挙カーがどこからかやってきて、寄り添い進んでいく。軍団の怒号と煽りあい、罵声を讃えるように、まったく同じスローガンを、スピーカーから連呼し、撒き散らし始める。
 「 この島国は、純血の軍国です 」と。
 「 軍備を拡大し、強い国、美しい国をめざします 」と。


 憎悪の乱舞。ぼくは打ちのめされ、心砕かれ、ああ歩道に倒れ て ゆ く な、と、薄れゆく意識に感じた、
 が、抱きとめ、支えてくれた、人がいた。
 まだ、そばに、いた。


「 死と愛。美しい国。憎悪咲き乱れる、 」( 了 )

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