高畑耕治の詩


せみの、うた

おひさま大地の布団にまだもぐったまま
いびきのない明け方
なんて静けさ

きのうあんなに雨降るように鳴き散らしてたのに せみ
眠っているの?
きみは寝ないと思ってた
土から出たら 羽根一度ひろげたら
死ぬまで飛びつづけると
鳴きつづけると
勝手に思い込んでた ごめん

なんだか少しほっとしたよ
せみも眠る
最期まで鳴きつくすために きみだって
やすめる

生きてきたんだ せみ
何才になったの?
三才それとも十七才?

満ちた力に促され
土から顔をだし 上へ上へ這いあがり
選んだ場所 危険な時間
殻を脱ぎ捨てるまで
羽根をひろげきるまで
食べられた仲間たち さようなら ぼくは

鳴ける
嬉しいんだ きみを
愛せる
一度だけ
今だけだから
からからに
なろう

きょうもこんなに雨降るように鳴き散らしているよ
秋の虫
もう聞こえない きみの

亡きがら砕け土に混じり風に散りぢり
飛んで
こわれて
消えた
うた

やすめるね
やっと
ずっと ぼくも
せみ


「 せみの、うた 」( 了 )

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