高畑耕治の詩


はじめて愛したあのひとは



   つみ


はじめて愛したあのひとは、
話してくれました。いつも、
わたしに。

「 ぼくは感じていたい
青空のほんのゆびの先にひろがっている
夜空
この星のうえぼくは
立っているのか逆さまなのか
足うら張りつけ
まわってる浮かんでる
この地球と
星空に

みんな知ってるつもり ほんとは
なんにもわからない
宇宙の果て 素粒子の果て 時の果て
えいえん

歩いてる
肉にくるまれた
がい骨 そのままのぼくを
感じていたい

この瞬間 餓えている子ども
戦禍に おびえている子ども
思っていたい
地震に 津波に 奪われた
いのち
病いに 倒れる
いのち

痛い

悲し すぎる 」

不思議なひと、病んだひと、でも。
愛するひとに、

「 わたしの胸のこの
ふくらみに ほら かたい
あなたの胸
背なかに
あなたの手のひら
あたたかい

抱きしめて

あなたの
わたしの
鼓動
溶かそ

あなたは
悲しみ じゃない
わたしの


よろこびよ 」

いつのまにか眠っていた、
ような。

あのひとの、
わたしの、
誰の?
声?
子守唄のよう、
祈りのように。

「 こわがらないで
あなたが ここにいま いるのは
生きているのは けして
つみ じゃない 」



   うた


はじめて愛したあのひとは、
うたってくれます。いまも、
わたしに。

  *

からだとこころ
ひりひり 痛い
すり傷きり傷くずれてく
感じるばかりのぼくは

生まれたときから
傷ふさごうと休みなく
食べました

食べられた
生きものたち
細かく砕かれ
細やかに結ばれ
ういういしく
細胞
みずみずしく
ふくらみ

壊れるぼくを癒してくれて
零れるぼくを満たしてくれて
ありがとう
生きものたちに
染めあげられ
生きました

ふるえるこの思いも
染色体の
絶えまない
ゆらめきかも
たまごと精子の交わりの
なつかしい
思い出かも

悲しみかみしめ あの
生死のあわいに
かえります
さようなら

  *

はじめて愛したあのひと、
なんて幼い、愚かなひと。
なんで
逝ったの? どこに、
いるの?

あなたは
わたしの
うた
悲しみ じゃない
よろこびの

生きものの
おとろえてゆくからだ
いのちかみしめ わたしまだ
生きる


あなたと


「 はじめて愛したあのひとは 」( 了 )

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