高畑耕治の詩


 ゆきひょうさん の心


月の光が囁(ささや)く夜に


 月の光が口づけてくれるのは、ひとだけにではありません。わたしもこの星に生まれた日、星の愛をこころに宿したのです。

 月がまぶたを開く夕暮れ、わたしたちも目覚めます。月の光に毛並みをぬらし、駆けだすのです、この地をけって。降りそそぐ光に導かれ、ふたりの影は寄り添い重なり溶けあいました。初めての、交わりでした。
 あのひとの瞳がふくらみ、満ちると、口もとに月の光、微笑みが香りました。その時、こころに眠っていたなつかしい歌、月の囁きが聞こえたのです・・・。

 思い出して。あなたは月の子ども、わたしとこの青い星の子ども。争い奪い殺しあわずには生きられない悲しい子ども、でもみんな、星の乳房に育てられた。わたしもこの星も、ひとりでは輝くことのできない星、浴びた光をあなたに伝えることしかできない堅い岩、だけど、いのちを輝かせたい、育てたいの。
 思い出して。星の乳房に抱かれ、白い光の乳にまどろんだ日、弱く幼かった日、守られていた日。わたしのこの美しい星への思いが、あなたとなって、微笑んでくれたの。

 月の歌声を聞くこんなわたしは、猛獣失格でしょうか? わたしがあのひとを弱くしたのでしょうか? あのひとは殺されました、わたしを人からまもろうとして。死顔は月の光のように清らかでした。

 わたし星の愛しみ、抱き締めあえない愛しみを知りました。さびしい、けれどなぜか、あたたかいのです。わたしのこころに宿ったかけがえのない星、あのひとがわたしに今も囁きかけてくれるから。

 やさしさは弱さじゃないよって。
 愛することは弱さじゃないよって。
 あたたかく美しい星の光だよって。



「 月の光が囁く夜に 」( 了 )

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