高畑耕治の詩


透歌。カスミソウ



 虹彩


星あいのあの、
あの向こう遠く、どこかに。
ブラックホールも、
息してる。

息がつまる。嗚咽する。
あなたの、
優しい瞳の、黒い湖水の、
奥深くひろがる海洋、
遥かな反転世界、魚群のように
きらめく銀河群、どこからか
見えずただ吸い込もうとするばかりの、
悲しく痛い、暗がりの、嘆きに。
くちづけしたいと、
息がつまる。

星、星、星たちの
幻の
花、花、花たちを、
恋う無酸素呼吸、
吸い、吸い、
吸えず、
息がつまる
無呼吸の苦しみの
無限エコーの波、涙、波の間に間、
嗚咽する。

眼を開けると、
傷口ばかりだ

さらに、もっと。眼を、
こころの、
瞳を、静かに、深く
ひらきなさい。

黒い雨、汚染水、空爆の応酬の
アメアラレに
あきれ果て嘆き果てても
あきらめようのない

雪、雪、花、花びら
小鳥たちの、
子どもたち
舞う声の
しぶき
なぎさの波の涙になって

瞳の奥底深い無呼吸
ブラックホールの
凍傷さえも

くすぐりあらい溶かし
ささめきの透明
純粋呼吸水

息がつまり、嗚咽して
息がつまり、もう
息ができなくても

まだ
息ができますように、と
無言で

うち返し繰り返し
星、星、星のしぶき
波、波、涙の滴
見開いた眼
傷んだ瞳の
虹彩に
虹遥かに
かすませ

息がしたい
生きたい

どこからか
どこかへ
とおい
あおい
空へ
かなえられられなかった
約束の
リボンも

かならず
かけられる、はず

渇きも痛みも傷も抱えた
悲しい瞳、だけには

まぶた見開かされたまま
ひかり、閉ざされ
いのち、奪われても

真砂なす星、星、銀河
闇時空の砂漠の果て
ふと

透明水、星の泉
花のように、
わきあがる
という

遥かな
とき

悲しみ痛みの
透明花
祈花

花と花
星の花の
透歌
あわく

もういちど
結ばれる




 星束のブーケ



夜が更けても夜明けまで浮かれ騒ぐ
街明かりに薄められる夜空の藍の
カスミソウの花束の
かすみかじかむ
いちりん
小さな
星、
知っています、あなたを。

とおいとおいあなた、もう
とっくに、
死んでいるあなたは、
とおい昔わたしの
生まれた、
とおとい星の
王子さま、わたしの
愛したひと

薄汚れた都会のビルの
閉ざされたこの部屋の
小窓を、
訪れてくれたあなたを
いつも待っていたこと
愛していたこと

カスミソウ
微かな宙の
ささやき、あなたを

辺境の惑星の
片隅で、
枯れても

愛している、わたしも
悲しく
カスミソウ




※読み 透歌 祈花: とうか。嗚咽: おえつ。宙: そら。



「 透歌。カスミソウ 」( 了 )

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