高畑耕治の詩


雪物語



 死化粧


響きあうものは、ただ
目と目
湖水の氷の光に、瞳
ひきこまれてしまうように

真白な凍りついた雪氷に
閉じ込められ
守られて
死化粧したこころ

溶かしだす
炎、あるとしたら
あのひとの

あからみの
初花

あんころ餅のアンのよう甘く
雪見大福のやわらかな白の手のひらに
そっとつつまれ
ウサギの小さな心臓のように
熱く
トクトクと
鼓動し

この真綿の雪のまに
赤くまばゆく
紅梅の
彩り
香りたちのぼらせて

殺りく世界の醜悪にせめて
こころからいのち
恋わずにいられない
歌物語
雪化粧して
美しく
灯せ




 ぬいぐるみ



初雪しんしんひたすらにふり
凍えゆきたいばかり
冬ざかり


どんなものより
きれい、好き

雪になりたい、そうねがうのは
子ども
だけでしょうか

ほんとうに大切なのは
雪の真綿
やわらかな
ぬいぐるみ
はだの
ぬくもり
ひとの
まごころだけだから

凍えてしまう
ひとひとひと
ばかりのこんな夜には

星ふれ星ふれ星、星、星ふれ

雪よりも
やわらかく
あたたかく

罪もなく殺されるばかりの
幼い瞳の涙、悲鳴
星の光せめて
いまはやさしく
つつめ

痛み、消しさり
かけがえのなさそのまま
天上に
美しい枯れない

そばには、ぬいぐるみ
永遠に、そっと
抱け




 花かげ



純白の果て
透明の
永遠へ
凍死する
憧れねがい
ひとのいのちに厳しすぎるなら


吹きかけ
子守歌
乳房に抱き
あたため

どうしようもなくあなたを
愛しています、どうか
愛してください
脈うちつづけ
とまるときまで

愁いかげおびた
ひとのこころの
うす肌色
山桜の花かげの
儚さに

恋い焦がれ
咲きしおれ
愛しみの
ゆめさくら
散り果てるまでなにもかも
みえないほどの
ゆきさくら
ゆきのゆめと
ふりしきり

銀河この世のむこうの暗闇へ
微かやわらかに、音なく
さくらゆき、
きらめき
とけて
ゆけ




 遥かな物語



なにもできずに
想う

生まれ、かなしみ、歌い、死ぬ

遥かなはるかな話
悲しい哀しい物語
星の瞬きの
痛みの
ひと
胸に
抱いて

この夜も
おやすみなさい
はるかなはるかな
かなしいかなしみの
ゆめから
ゆめ

なにもできなくても
想う
ひとを
あのひとを

生まれ、想い、愛しみ、
生きて、

今夜
雪になる

いつか
永遠に

ゆきに鳴る




※読み 抱け:いだけ。愛しみ: かなしみ。



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