高畑耕治詩集『さようなら』


ななつ星のオルゴール


 星はしあわせでしょうか。
 星のひかりが愛(かな)しく美しいうたごえなのは、なぜでしょうか。みつめる瞳にしずかにささやく、星も瞳をみつめています。夜ごとうたにならない思いをこころに描く、ひとりの女性(ひと)をななつ星はみまもり、うたを奏でました。

 嬉しくもなく悲しくもなくむなしいだけです、今日も昨日もたぶん明日も。さびしさはがまんできます、もういまは。でもむなしさは毎日、表情をうばってゆきます。あのひとを愛し、失ってからひとを、愛せません。くずれてゆくわたしをかわいた目でとおく、眺めるばかりです。


    いちばん星の恋うた

  きみはあまり笑わないひと
  だからこぼれる笑顔がすてき
  ほんとうに うれしそう
  美しい星 きみが好き

 そばにいると、抱きあっていると、生きていること、好きだった、それだけ、なにもいらなかった。
 愛してはじめて聞いた音、ひとりでは聴きとれなかったしらべ、もう聞こえない。


    涙星のわかれうた

  好きな星 でもはなれてく
  好きな星 でもすれちがい
  流れ星は マリンスノー
  宇宙の海に降る雪は
  星のなきがら 涙です

 ポストに手をさしいれるとゆびにふれるゆび、手紙なんかいらない、わたしに、こころ伝えてください。
 ドアのノブをまわすと部屋のあかりにあなたの、微笑み、なんかいらない、わたしに微笑んでください。
 留守録のライトはまたたきわたしの電話を待っている、声、なんかいらない、わたしに話しかけてください。
 忘れてくれた、もう、わたしを思い出さないひと、わたしを思い出して。


    ふられ星の泣きはらした目

  好きだったのに ふられた
  ほんとに好きだった のに
  「 あなたの愛をうけいれられない 」 ああ
  雲よ わきあがれ
  雨よ ふれふれ もうぼくは笑わない
  銀河は涙のどしゃぶりだ

 女はそん、痛い思いばかりする、はじめてうけいれるときも生理のときも子どもを生むときも、なぜ? だから? 失ってゆく痛み、がまんできる、わたし、がまんできる。


    憧れ星の淡い恋

  わたしななつ星のひぞうっこ
  南の空 旅したい女の子
  オリオンの
  みつ子のまんなか星が好き
  だけどわたし ひぞうっこ
  北の空 旅立てません

 どうして生まれてきたのでしょうか、どこから生まれてきたのでしょうか、どうして愛してしまうのでしょうか、どこへきえてゆくのでしょうか。生めないなら、生まないなら、つづかずとぎれてしまうなら、はやく死んでもおなじこと? でも生むために生まれたんじゃない、宇宙で燃えてるわけじゃない。


    考える星 わけのわからない哲学

  ひかりはせいし ふりそそぎます
  生死はひかり おたまじゃくし
  わたしはたまご
  銀河は たらこ たまごのつらなり
  かえるのたまごは銀河のいとこ
  ひかりはたまご かがやきながら
  ふりしきります

 わたしがひとつのたまごだったなんて。しずかにおりてゆくたまご、手をのばすせんもうたちの腕にまねかれ、たどりついた母のゆりかご、おとずれた、はじめての海。
 やすらぎからわたしは生まれた。わたしにはなにもないけれど、おかあさん、あなたが生んでくれた、ひとりの星。わたしのきっとどこかにいまも、あなたの星のかけらが、かがやいている。


    ズバリ星の率直な抗議

  ななつ星ななつ星って
  きめつけないで わたしたち
  ひとりひとり 生まれて
  ぱらぱら はなれて 好きだから
  かがやいている 星なんですからね
  勝手にさせて


 愛することはかがやくこと、星のひかりを思い出すこと、またたきを伝えあうこと、なぜか燃えるひかりを宇宙に、ささげること。星のかがやきも、このいのちも、さずけられたひかり、きえてゆく音。
 どこからおとずれて、どこへきえてゆくのか、しらずにまたたいている、愛(かな)しみ。星はひきあわずには、好きあわずにはいられないから、わたし、ひとを、愛さずにはいられない。


   ななつ星のはあもにい

  星は瞳
  瞳は星 だから
  星の愛しみは ひとの愛しみ
  ひとの涙は 星の涙
  星のかがやきは ひとのかがやき
  ひとの微笑が
  星のよろこび

 ひとはしあわせでしょうか。
 ひとを愛した星はむかしから絶えません。ぼくもそのひとり、ななつ星のしっぽ星、ななつめの星。はあもにいにまぎれてひとりでうたわなかったこと、ゆるしてください。
 ぼくはしずかにみつめていたいのです。愛している、あのひとを。
 ですから、ときおり北の空をみつめてくれるあのひとにだけ、そっとささやくのです。
 あのひとがななつ星のまぢか、ぼくのそばでまたたく淡いひかり、やさしい恋人になってくれることを祈りながら。


  あなたの涙は ぼくの悲しみ
  あなたの微笑が
  ぼくのよろこび



「 ななつ星のオルゴール 」( 了 )

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