高畑耕治詩集『愛のうたの絵ほん』


みみの旅立ち


めったにくれないきみからの電話 驚いた
みみがいなくなったの
ベランダでどんって音 驚いちゃった
ここ六階よ 逃げちゃったの
恋かな?
まだ子猫なのに
死体はなかった?
うん なら・・・・・・
旅に出たんだ ぶらりと家を飛び出して
どこかへゆきたい
そんなとき誰にでもある

耳を線路に押しつけていつまでもきいた
遠ざかる列車の響き

みみぼくも家出した
山のむこうへ
うるしを掻きわけ どんぐりをけり
かさこそ枯葉を踏みしめ よじ登ると
小川があった うさぎのふんが転がっていた
腕と顔をぬらして口にふくんだ冷たい水
おいしかった
もっと上流へ この小川の湧き出る
泉へゆこう
みつけたの?
団地の下水だったんだ それでも
木の枝に顔をひっかけ
松やにでてのひらはべっとり
からだじゅう赤土まみれになり
しだを踏み こけのにおいにむせながら
木洩れ日のなか手さぐりでさまようと
明るいところにやっと抜け出た
はい登ると急に視界がひらけ こんなところに
広い野原が?
ってうれしかった
みつけたの?
ゴルフ場だったんだ
みみぼくは 急にさびしくなって
子猫のように泣きじゃくり
かえろう 家に
かえろう
待ってくれるひとがいる ぼくを
待ってくれるひとがいる 明かりに
かえろうって 夕暮れの山 泣きながら走った

みみ家にかえってきて
きっとかえってくるよ
かえりたくても六階はあんまり高すぎて
よじ登れないのかもしれないじゃない
見上げられなくて迷ってるのかもしれないじゃない
きみが拾って大切に育てた
のら猫みみは きっとみみの
家にかえったんだよ

みみ いまどこでどうしてる?
心配なんかしていない お前元気に
泣きながら旅立ったのか



「 みみの旅立ち 」( 了 )

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