高畑耕治詩集『愛のうたの絵ほん』


ぴけ


大好きなサッカーチームなんたらかんたらすが
大接戦のすえPK合戦で負け
悔しくてたまらない息子は、ぶつぶつ
ぴしゃりと妻の声
「 強いチームが好きなんて最低よ
父さんみたいになりたくなかったら
自分のことで腹たてなさい 」
( 町内のサッカーチームでPKはずしてばかりの
勝負弱い息子には酷だ、おれもチャンスに
三振ばかりしてた )

「 PK合戦には批判もあるからな
引き分けでいいんじゃないかってな 」と口をはさむ
と、なんたることか息子が
「 後まで闘って決着をつけるべきだよ 」
( そうだおれも延長戦はいまでも好きだ、が )
「 勝敗にこだわることはない 」
「 父さんこないだ、PKやるべきだよっていってたくせに 」
「 あれはPKOだよ政治の話だ 」
「 なにそれ? 」
「 平和維持活動だ、いい争いはやめよう 」そこへ
往年の労働闘士
おじいちゃんがなにを思ったか
「 男なら闘うべきだ、おれもいのちがけでピケをはったもんだ 」
「 ピケよりPK合戦がましだな 」と洩らしたのがいけない
「 黙れ、ストもやれないおまえたちがこの子を
海外派兵の危険にさらすんだ 」
援軍をえた息子は
「 ピケっておもしろいの? 」

うんざりして野球でもみようとすれば
息子はテレビにかじりつき
ボタンを夢中で操作してる
「 どけよ野球の時間だ、ファミコンで
人殺しのまねしてなにがおもしろい」
「父さんもこないだテレビの戦争みて
ゲームみたいだなって笑ってたじゃないか 」
「 PKOをみてたんだ 」
「 PKOなんてやめてどうしてPK合戦やんないの? 」
「 おまえのような闘い好きでルールを守らないやつもいる 」
「 ファミコンで悪者やっつけるのとどうちがうの? 」
「 現実をなめるな、平和のために
やるべき義務ってあるんだ 」
「 ファミコンでひと殺すのだめで、現実ならいいの?
どうしてじゃんけんで勝負つけないの? 」
「 おまえそれ、おれを困らせるピケのつもりか? 」

今日も学校に行かなかったらしい娘が突然
部屋から飛びだしてきてなにを思ったか
「 ぴけぴけぴけぴけってうるさいわね
平和とか義務とかいってみんな嘘でしょ、お父さん
ほんとはどうでもいいんでしょ、自分が
やることないだけじゃない、なんにも
できないだけじゃない、無責任なんて
責任おしつけないで
戦争はそこらじゅうにあるのよ
みえない規則の校舎だけ守って
国や会社や家庭 守ってる気でいて
そこにいるひと見殺しにして、死んでも
平気だなんて
なにが平和よ、かなしみもわかんないくせに
おせっかいやめてよ
国民のみなさんだとか社員のみなさんだとか中学生のみなさんだとか
いっていい気にならないで、わたし、みなさんなんかじゃ
ないんですからね
おせっかいやめてよ
醜い争いよしてよ、ふたりとも
テレビとりたいだけじゃない、みんな
テレビにうつりたいだけじゃない
チャンネル争いなんてよしてよ、あきれちゃう
ビデオ買えないなんて、うちだけよ 」

「 黙れっ 」
とおもわず手が動いた
言葉より、しゃべればしゃべるほど
赤く染まってしまう頬と、目に浮かんだ幼いひかりを
美しいと感じながら
ふだん口数のすくない、この娘
こんなこと考えてたのか、ああ痛いこの手
なんでこんなにしびれるのかと
驚きながら
泣きじゃくり睨みつけた顔
忘れないだろう
守ってやるなんていえない、が、この子
生きていてほしい

あれからぼくはぴけという響きが嫌になった
もう口にしない ぼくにできること
したい


「 ぴけ 」( 了 )

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