高畑耕治の詩


果ての海のマズルカ



深く不快な腐海心海深海の
底にも
けだるげな苦いリズムの
マズルカばかりは
響くのだという

さしこんでくるはずもない
わずかな光に感応し

重い波にもゆるやかな
鼓動を
躍りを
うながし
呼び覚まし
励ます
のだという

それもこれもとおい
海の底のこと

あおい水平線の
あかい夕焼けの

それもこれもとおく
どこまでもつづく
あなたと愛した
海のこと

日暮れ世界が閉じられるまえに
キャンバスくまなく
暗灰色の下塗りの
そのうえに

憂うつの
マズルカぬりたくる

自然彩色のチューブ絞りだし
パレットに
赤緑黄色金銀紫菫色
色とりどりの無数の
虹の
果て

無限階調の
光彩色を
幻視すれば

仕上がりは
とめどなく
まっ黒

どうしようもない

底深く意地悪く色を失う
暗黒のその
どん底

ふいに
黒が白に
闇が光に

変異してしまい
美しく輝かずにはいない

色彩の
音楽の
海も
あるという

かならず
あると

とおく
愛した

記憶がいう

波の色も潮騒も
あおくかがやき
マズルカ

愛した
かった
愛された
かった
生きものの




*参照 マズルカ: ショパンのピアノ曲。
ポーランドの民族舞踏・歌。

*読み 菫色: すみれいろ。



「 果ての海のマズルカ 」( 了 )

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